煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
しんと静まり返った体育館に、ボールの弾む音が響き渡る。
ふぅと息を吐いて構えると、リングを目掛けて手首のスナップを利かせ。
トンと着地した後に、きれいな弧を描いたボールはリングに吸い込まれていった。
こうして心を落ち着かせればいつも通りの力を発揮できるはず。
今までやってきたことを思う存分出し切ればいい。
"練習は嘘をつかない"
相葉先輩のその言葉を胸に、ここまで必死にやってきたんだから。
もう一度ふぅっと息を吐き、小さくバウンドしているボールを取りに行く。
するとふいに目に入った自分のバッシュ。
片足ずつ緑と黄色の色違いで結ばれた靴紐。
立ち止まってジッと見つめながら、さざ波のようにゆっくりと押し寄せてくる相葉先輩への想い。
募らせないようにしていても、それはみるみる内に膨らんでいくだけだった。
報われることなんてないのに、どうしたって抑えきれなくて。
お互いの好きな色を交換し合った靴紐も、小さくなったからって貰った俺にはぶかぶかのトレーナーとハーフパンツも。
それから、初詣の日に買ってくれた勝守りも。
目に入るもの全てに先輩の影が重なってしょうがない。
こんなにも俺の心を占めてる先輩への想いを、今更止められるわけないよ。
だから…決めたんだ。
明日の新人戦で優勝できたら、先輩に気持ちを伝える。
いつまでもこのままでいたってどうしようもないじゃんって。
この新人戦までの間、これ以上気持ちが大きくならないように極力先輩と話さないようにしたこともあった。
だけどそんなことしても意味がないって気付いたんだ。
だって相葉先輩は俺の気持ちなんてお構いなしに接してくるから。
それは当然のことなんだけど。
あくまでただの後輩として他の奴らより俺を可愛がってくれてる先輩。
その距離感だけでも幸せじゃんかって。
それに、もし俺が気持ちを伝えてもきっと先輩なら今まで通り接してくれるはず。
根拠なんてまるで無いけど、俺たちのあいだにはそういう絆みたいなのが出来てるって勝手に信じてるんだ。
明日優勝して、そのままの勢いで当たって砕けてやる。
散り散りに砕けたって心配いらない。
修復なんてしなくても新しい自分になればいい。
一番近い…ただの後輩に。