煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
目の前まで来て俺を見下ろす先輩を見上げる。
「…じゃあ俺から言おっか。年上だし」
治まらない心臓を掴むようにぎゅっと握り締めたまま、先輩のカッコいい残像がリフレインして。
加えて俺に向けられる真っ直ぐな眼差しにも否応無しに捉えられる。
ジッと見つめ合うこと数秒。
自覚するほど赤くなっていく顔と、揺れてぼやけそうな視界。
先輩が何か言おうとしてくれているのに、その瞳を見つめているとどうしたって自分じゃいられなくなる。
体が好きだって叫びたがってる。
想いが大きすぎて最早手に負えない。
もうダメ…
息が詰まりそうでふっと目を逸らした時、急に訪れた軽い衝撃。
くいっと腕を引かれてトンっと身を預けた先に。
ふわふわのマフラーとコート。
ぎゅっと力が込められた腕で包み込まれた俺の体。
っ…な、にっ…!?
「…ダメだ、俺。やっぱ無理」
頭の上でくぐもった声がして、ぴったりと耳元に付けられた唇の動く感触と。
はぁっと深く息を吐きながらぎゅうっと抱き締められる苦しさに、もう頭は正常な働きをしなくなった。
せんぱ…
「…ごめん、こんなことして。でもさ、もう俺ダメみたい」
「……」
「もう…ごまかし利かねぇの。お前見てると」
ドクドクと張り裂けそうな心臓が鼓膜に纏わり付いて、先輩の言葉がどこか遠くに聞こえるようで。
その声をちゃんと聞きたくてそっと顔を上げようとしたら、拒むようにまたぎゅっと抱き寄せられ。
「俺ね、お前のこと…ただの後輩として見てないんだ」
「……」
そしてもう一度はあっと息を吐いて、しばらくの間のあと降ってきた言葉。
「俺さ、お前の…二宮のこと、好きになってる…」
「っ…」
そこだけ切り取ったように確かに聞こえたフレーズ。
今までの言葉をパズルのピースのように組み合わせて、ようやくカチッと嵌り完成されたその全貌に。
改めて自分の耳を疑った。
待って…
なに?どういうこと…?
せんぱい…
「…ごめん、こんなこと言って。明日試合なのに」
「っ…せんぱ」
「ごめんなほんと。でも抑えらんなくてさ、」
「っ、せんぱいっ!」