煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
遮るようにバッと顔を上げれば、超至近距離に面食らった先輩の顔。
その顔がみるみる赤くなっていって、隠れて見えない喉からごくっと呑み込む音がする。
そんな先輩の顔と同じく多分真っ赤になってる自分の顔。
でも今はそんなこと構ってなんかられない。
まさか…
まさか先輩も俺のこと…
「ぁ…えっと…」
急に泳ぎ出した円らな瞳。
逃げたそうなその視線とは裏腹に抱き締める腕の力は全然緩まない。
…だから俺も。
おずおずと背中に回した腕で、あったかいコートにきゅっとしがみついた。
「っ…お前、」
「せんぱい…」
ふわふわのマフラーがおでこを擽る。
温かい先輩の胸に顔を埋めて、思いっ切り鼻から息を吸い込んだ。
大好きな先輩の匂い。
こんなにぎゅっと抱き締められたのは初めてで。
それも、スキンシップのひとつとしてじゃない。
先輩の想いが乗せられた確かなぬくもり。
もう信じらんないよ…
夢みたい…
「…二宮?」
しがみついたまま浸ってしまっていた思考を断ち切ったのは、他でもない先輩の戸惑った声。
そうだ、肝心なこと言ってない…!
また勢い良く顔を上げると、さっきと同じように一瞬たじろぐ先輩。
…やっと、やっと。
先輩に…言えるんだ。
「相葉先輩…」
「っ、うん…」
目の前の赤い顔が急に畏まる。
そんな先輩につられて、俺もちゃんと言わなきゃって。
ちゃんと気持ちを伝えなきゃって。
でも、今までずっと無理矢理に押し込めてきたこの想いが。
ついに解放される時を迎えると思うと、どうしようもなく熱いものが込み上げてきて。
ツンと上り詰めそうな熱を堪えながら、震える唇を小さく開いた。
「俺も…せんぱいが…
ずっとずっと…せんぱいのこと…」
ジッと見つめてくれるその瞳に促されるまま、堰を切ったように溢れ出た熱と言葉。
「好き…ですっ…
せんぱいが…好き…」
滲む視界と、頰を伝う熱い涙。
ねぇどんな顔してるの…?
もう涙で見えな…
「っ…」
ふいに頰に触れた指の感触。
ぎゅっと目を閉じてゆっくりと開けば、ぼやける視界いっぱいに広がる満面の笑顔。
大好きな大好きな…
相葉先輩の笑顔がそこにあった。