煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
「…またお前か」
保健室に入るなりうんざりした顔の松本先生に一瞥されて。
「最近よく来るな。風邪治りきってないんじゃねぇの?」
体温計を差し出され、側の丸椅子に座るよう目で促される。
「…アレかな、知恵熱ってやつかな」
「っ、え?」
「んふふ、俺そういうの分かっちゃうのよ」
言いながら怪しい笑みで記録を始める先生に、何も言えず押し黙るしかなかった。
結果的には…
あの翌日の新人戦は高熱の中での出場となり。
案の定ふらふらの状態で全く使い物にならなかった俺。
それでも何とか気力で決勝には行ったものの、別パートから上がってきた格上の相手にコテンパンにやられた始末。
相葉先輩は『今の自分達の実力が分かった意味のある試合だった』ってミーティングで纏めてくれたけど。
俺にしたら本当に不甲斐ないこと極まりなかった。
前日に勝手に自主練して体が冷えて熱が出ちゃって。
けどあんな思いがけない出来事もあったんだ。
どっちかって言うとそのことの方が俺の調子を狂わせたんじゃないかって。
…ちょっとだけ相葉先輩のせいにしたい気分。
ピピっと軽い音が鳴り体温計を見れば、いつもの微妙な数字。
「ふーん…どうする?そこで休んでてもいいけど」
スラスラと書類にペンを走らせつつチラリ横目でそう告げられる。
ここんとこ学校に来ると決まって頭と体が熱っぽい。
原因は不明…と言いたいところだけど。
「あれだろ、今テスト期間中だから部活ねぇんだろ。休んどけば?アイツが迎えに来んじゃねぇの?」
足を組み替えながらニヤニヤした笑みを向けられ、今しがた頭の中に浮かんでいた顔を指摘され口をむっと結ぶ。
「ふふっ、分かりやすいな〜お前は。そういうとこだな」
「…は?」
「いんや?じゃあ俺ちょっと職員室行ってくるわ」
言いながらヒラヒラ手を振って出て行った先生。
仕方なく言われた通りに白いベッドに寝転んでスマホを取り出す。
先輩に保健室に居ることを伝えれば、送信したと同時に既読が付いて。
…え?見てたの?
そう思ったのも束の間、シュッと現れたメッセージ。
"まじ?またねつあんの?すぐいく!"
急いだ時の先輩からのメッセージは全部ひらがなの場合が多い。