煩悩ラプソディ
第37章 刻みだした愛の秒針/AN
「で?なんかあったの?」
画面を見つめる視線がたまにチラチラとこちらに向けられて、作業をしながらでも一応俺の話を聞いてくれるみたい。
「いやそれがさ…なんにもないんだよね…」
「え?」
「なーんにもないの、俺たち」
「…ん?」
言いたいことがイマイチ伝わってなくて、ついには松潤の手を止めさせてしまった。
「…どゆこと?」
傍らのコーヒーに口をつけつつ、先を促すような目を向けられ。
背凭れから体を起こし口を開こうとして、ハッと息を呑み込んだ。
…ここまで言っちゃったからさすがにもう後戻りできないよね。
いやでもさ…
これ言うのってめちゃめちゃ恥ずかしくない?
そりゃ全てを知ってる松潤にしか言えないのは分かってんだけど。
『恋人とそれっぽいことしたい』なんて…
三十過ぎたおっさんが言うセリフじゃねぇだろ!
「えっと…いや、ごめんやっぱいいや」
「いやいやそこまで言っていいはないでしょ」
ひらひらと手を振りながらニヤニヤする松潤。
…ていうか面白がってるよね?
「…いや、まぁプライベートだし別にいいけどね」
意外とすんなりそう発した視線はまたパソコン画面に移され。
今までもプライベートなことはメンバー同士それほど干渉してこなかったけど。
特に俺なんかはそういう類の話をメンバーとしてこなかった。
でも今回ばかりは。
俺とにのがそういう仲になったことを知るのは、きっとこの地球上で松潤しかいないから。
恥ずかしさとかプライドとかそんなものに構ってる場合じゃない。
前にも後ろにも進めないこの状況をなんとかするには…
「…あのさ、」
「はい?」
指を動かしつつチラッと向けられた視線がなんとなく笑ってる気がしたけど。
「最近にのと連絡取ってる…?」
「個別に?」
「うん」
「いや最近は減ったね。今まではしょっちゅうLINE来てたけど」
言いながら頬杖をついてニヤニヤした笑みを向けてくる。
「…いや迷惑かけてたのは十分わかってるって。
そうじゃなくてさ、その…」
「…あ、そういえば」
何て言って切り出そうかまごついていると、少しの間のあと思い出したような声がぽつり届いた。