煩悩ラプソディ
第37章 刻みだした愛の秒針/AN
車窓から流れる景色をぼんやりと眺めつつ、異常に凝り固まった肩が重く感じて溜息を吐いた。
いつもの収録を終えいつも通りに楽屋を出て、いつものようにマネージャーの車で帰る。
そう、至っていつも通り。
いつも通りに…振る舞えたよね?俺。
スマホを取り出してLINEのアイコンをタップ。
一番上に表示されているトーク履歴をまたタップすれば、昨日の相葉さんとのやり取りが映し出されて。
"じゃあ明日収録でね"
という短い言葉で締めくくられたその背景には、遊園地で撮った優太と三人での写真。
こんな写真なんか使っちゃって…柄でもないけど。
でもこれが俺にとって唯一の証みたいなもので。
相葉さんと…
恋人って関係になった証みたいなさ。
恋人…
そう思った途端、じわじわと顔が熱くなってくるのが分かった。
ほらまた。
もうやんなっちゃう。
キャップを取りごしごしと両手で顔を撫でる。
ちょっとでも考えるとこれだもん。
相葉さんを"恋人"として意識してしまうともうダメ。
だから今日みたいな収録の日は普通に振る舞うのが一苦労なんだよ。
距離を置き過ぎないように、近付き過ぎないように。
相葉さんにもメンバーにも不審に思われることのないように。
今まで通りの自分を保つので精一杯。
つかさ…
多分こんなこと思ってんの俺だけなのよ。
なんで俺だけ無駄にドキドキしなきゃなんねーのよ。
難しいよなぁ…親友から恋人になるって。
二十年も一緒に居る親友が急に恋人になるってさ…
そんでバカみたいに浮き足立っちゃって…
「二宮さん、このまま自宅でいいですか?」
運転席から聞こえた声に"うん"と即答して、またスマホに視線を落とした。
たまに会える時は一緒にご飯食べてどっちかの家に泊まったりはする。
でもほんとにそれだけ。
同じベッドに寝たって隣り合った肩が少し触れるくらいだし。
てか正直言うとすんごい恥ずかしくて。
だって相葉さんよ?あの相葉雅紀が横に寝てんのよ?
俺からしたらもう照れ臭くてしょうがなくて。
まさに"恋人同士"って状況にまだ照れしかなくて、甘い雰囲気なんてこれっぽっちもない。
それに…
相葉さんがそういうことを望んでるかも分かんないし。