煩悩ラプソディ
第37章 刻みだした愛の秒針/AN
ほらもう。
こんなの反則だって。
せっかく慎重に何枚も重ね着してたってのに。
一気に身ぐるみ剥がされた気分じゃん。
つーか試着室のカーテンを後ろから急に開けられたみたいな。
こんな無防備な状態じゃもう何も隠せねぇわ。
「…にの」
至近距離で名前を呼ばれたことにすらいちいち体が熱くなって。
逃げ出したいのにしっかりと包まれた体は身動きが取れずに。
だけど、それを理由にして天邪鬼な自分を無理矢理納得させようとしてる俺もいる。
「…好き、にの」
合わさっていた視線が外れたかと思ったら、また頬にちゅっと唇を寄せられて。
久し振りに相葉さんから言われた"好き"と、まさに恋人にするような愛情のこもったキス。
相葉さんとの肩書きが変わっても断固変えようとしなかった関係性。
変えられない、変えない方がいいと思ってた。
だって俺たちはずっと親友だったから。
ゆっくりでいい。
これまでと同じように傍に居られたらそれでいいって。
そう思ってたんだよ、今の今まで。
でもさ、こうも簡単に突き破ってこられるとさ。
もうそうなのかなって。
ねぇもう…
もういいのかな。
俺もう…
全部脱いじゃっていいの…?
もぞっと身動いで体の向きを変え、そのまま正面から相葉さんに抱き着いてみた。
腰に回した腕にきゅっと力を込めれば、応えるように俺の体を包み込んでくれて。
ぴったり密着した同士、やたらしっくりくるこの感触にどうしようもない気持ちになる。
…ねぇ相葉さん。
俺、踏み込んじゃっていい?
もう全部取っ払っちゃっていい…?
「…いいよ」
ぽつり静かに届いたその声に、思わず首元に埋めていた顔を上げた。
「……え」
「いいよ、素直になって」
途端に、目尻に皺を寄せた穏やかな声が降ってきて。
「俺の前でくらい素直になんなよ」
そのまま澄んだ瞳で真っ直ぐに見つめられ。
「…恋人なんだし」
言い終えてすぐ赤くなった半笑いのその顔につられて堪らず吹き出した。
「…自分で言ってなに照れてんのよ」
「くふっ、いや恥ずかしくない?」
そんなの恥ずかしいに決まってんじゃん。
相葉さんと恋人同士だなんて。
そんなの…
最高に恥ずかしくて幸せだよ。