煩悩ラプソディ
第37章 刻みだした愛の秒針/AN
玄関で出迎えると、キャップの鍔をくいっと上げてこちらを窺う薄茶色の瞳。
「おかえり。お疲れさま」
「…うん、ただいま」
笑いかけたら何となくぎこちない笑みが返ってきた。
しかもちょっと口尖ってるし。
あれ?なんかあった?
ソファに荷物を置いた猫背にキッチンから呼び掛ける。
「飲む?先風呂入る?」
「あ、風呂入ろっかな」
すぐに返ってきた返事はいつものにので、最初の違和感は俺の勘違いだったと安心した。
なんだよ、ビビらせんなって。
俺の今日の決心読まれてんのかと思ったじゃん。
こっそり安堵の息を吐いた時、ソファからドアへ向かってくるにのを見つけて。
ちょっとした運だめしをしてみようと思った。
基本的に俺とくっつくのを恥ずかしがるにの。
二人でまったり飲んでる時なんかにちょっとそんな雰囲気になったって、仕掛けるのは決まって俺のほう。
ハグもキスもほとんど俺からしかしたことないし。
そんなにのに今日はかなり大仕掛けをするつもりの俺。
その前にちょっとでも景気づけしておきたくて。
のんびり歩くにのの前に立ちはだかって、軽く両手を広げてみる。
急に現れた俺に、目の前のにのは眉を顰めて『なに?』って顔してるけど。
「おいで、にの」
迷わずこの胸に飛び込んできたら…
今日はイケる気がする…!
「…は?」
半笑いでただ発した一言。
「ちょ…どいて、風呂行くし」
両手を広げる俺を無視するように横を通り過ぎようとするにの。
「いやちょ…待てよ!ちょっとは付き合えよ!」
「なんだよ!なに付き合うって、」
ぐいっと腕を掴めば笑いながら緩く抵抗する素振り。
ほら、絶対こうなるんだもん。
いつも恥ずかしさの方が勝って笑っちゃうんだよ、にのって。
こっちはちょー真剣だっつーのに。
「もう…なによ」
そんなこと言ってるにのだって顔も耳も真っ赤なくせにさ。
まだ素直になんないの?
ならもうど真ん中ストレート投げ込んでやるか。
絶対逃げられないように。
いや逃がすつもりなんてさらさらないけど。
「…にの」
「…なに」
「今日エッチしよっか」