煩悩ラプソディ
第37章 刻みだした愛の秒針/AN
ささ身を茹でながら緩まる頬を抑えられずにいた。
ちょっと強引だったかなって思ったりもしたけど、にのにはあれくらいが丁度良いんだ。
にのはきっと拒むことはないって信じてたんだけどさ。
どんな風に持ってったらいいかは考えてなかったから。
精一杯の真剣な顔を保つのがちょー大変だったわ。
運だめしの結果は置いといて、とりあえず上手くいって良かった。
それにしてもにののヤツ…
真っ赤な顔して俺の胸に飛び込んできちゃって。
ふふっ…
あー可愛い。
あ、鼻歌出ちゃった。
簡単に調理したつまみとビールを上機嫌でテーブルに運ぼうとした時、丁度風呂から出てきたにのと遭遇した。
一瞬動きが止まったけど、何食わぬ顔で髪を拭きながら歩いてくる。
ちらっと視線だけ送り、無言で俺の前を通り過ぎるその耳は案の定赤く染まっていて。
くふふ、照れてる照れてる。
そんな仕草が堪らなく可愛くて、にのの後についてソファへ向かうと。
「…ねぇ」
ごしごしと髪を拭いていたにのが急に立ち止って。
俺に振り返り静かに口を開いた。
「あのさ…一個聞いていい?」
その瞳がどこか不安そうにゆらゆらと揺れていて、もしやさっきの無しとか言われるんじゃないかと思っていたら。
「俺ってさ…どっちなの?」
「……ん?」
「いやだから…どっちがどっちなの?」
「なにが?」
むにむにと言いにくそうに口を動かすにの。
そのセリフの意味が分からなくて、両手の皿とビールをローテーブルに一旦置いた。
「ん?なに?なんのこと?」
「だから…お前はどっちのつもりなのって」
「なにどっちって」
「っ、分かれや!なんなのお前!」
終いにはタオルでぺしっと肩を引っ叩かれたけど。
コイツさっきから何を言ってんの?
『もぉ~』とソファになだれ込んだにのを見つめつつ、そのセリフの意味を一生懸命理解しようとして。
どっちがどっちって…
俺はどっちって…
……あ!
「あぁ!」
「っ、お前やっと…」
「え、そんなのにのが下に決まってんじゃん」
「なんで決まってんだよ!」