煩悩ラプソディ
第37章 刻みだした愛の秒針/AN
スウェットを履いたまま蓋の閉じた便座に座り。
前屈みで頭を抱えれば、火照った顔とは裏腹にあり得ないくらい冷たくなった手の平に自分でも驚いた。
いやマジで驚いてる。
俺ってこんなに度胸ないの?
これからすることにびっくりするくらい恐怖を感じてるのが分かる。
顔から手を離してそれをジッと見つめれば。
微かに震える指先。
ハーッと息を吐いても荒波のようにドクドクと打ち続ける心臓。
飲みながらそれなりに覚悟は決めたつもり。
でもいざその時を迎えるとなると、こんなにも体に影響が出るものなのか。
こんなに緊張するのは久し振りかもしれない。
つーかそもそもなんで相葉さんにこんなに緊張しなきゃいけねーのよ。
いや…
相葉さんにだからか。
これから待っている未知の領域に対しての恐怖はもちろんだけど。
この先自分がどんな風になってしまうのか分からないってことと。
それを相葉さんの前で晒してしまうってことが。
どうしようもなく怖くて堪らない。
ギュっと胸の真ん中辺りを握り締めてみても、全く落ち着く気配のない心音。
そればかりか相葉さんの影が頭にチラついて更に緊張が高まって。
相葉さんの前で全部脱ぐって決めたのに。
変な強がりとか天邪鬼とか取っ払わなきゃって分かってんのに。
俺ですら知らない俺を晒け出すまでの勇気は…
詰まる息をまた吐き出した時、ふいに控え目なノックの音が響いた。
「…にの?大丈夫?」
静かに聞こえてきたその声に一際どくんと心臓が波打って。
「ぁ…ごめん、大丈夫、」
「そっか…先に行ってていい?」
遠慮がちに告げられた言葉。
「…うん、すぐ行く…」
小さくそう答えると気配が遠のき、少しの間のあとに微かにドアの閉まる音がした。
もういっそのことおちゃらけてくれたらいいのに。
『にのなげーよ!俺も入るんだけど!』ってくらい明るく振る舞ってくれたらどんなに気が楽か。
つーかさ…
なんかあの人も緊張してない?
やめてよ、俺だけでいいのよ緊張すんのは。
俺のこと抱くってそう決めてんだったらどっしり構えとけよ。
そうじゃなきゃほんと…
ほんと怖いんだって、俺。