煩悩ラプソディ
第37章 刻みだした愛の秒針/AN
思わず漏れてしまった声をぐっと呑み込んだ。
それに反応して止まってしまった指。
ほら、やっぱり。
あんまり声なんか出しちゃダメなんだってば。
俺が少しでも痛がるような仕草見せたらきっと途中で止めるに違いない。
優しいこの人のことだから。
それだけはしたくない。
しちゃいけないって思ってる。
だってこれは相葉さんも俺も望んでいること。
容易くない行為だってことは十分わかってんだ。
でも、ただ傍に居るだけじゃ分かり合えないこともあるんじゃないかって。
痛みとか苦しみとか、嬉しさとか幸福感とか。
そういう感情って体を繋げることでより分かち合えるような気がしてるから。
…ってさっきトイレで散々自分に言い聞かせたじゃん。
大丈夫だって、相葉さんだから。
絶対俺を傷付けるようなことはしないから。
「…にの、大丈夫?」
案の定脚元から不安気な声が聞こえて。
すぐに近付いて来て俺の顔を窺う相葉さんに、頷きながら小さく微笑む。
「ねぇ…」
「うん?」
「…キスして」
真っ直ぐ見つめてそう告げると、ほんの一瞬驚いた顔をしたあと。
ふふっと鼻から笑みを溢し、嬉しそうに目を細めた顔が近付いてきた。
ふっくらした感触が去り、その唇を目で追い掛ければ。
目尻に皺を寄せた優しい笑顔が広がって。
この人の笑顔は俺に何十倍もの力を与えてくれる気がする。
だから安心するんだ。
絶対大丈夫だって思えるんだよ、相葉さんとだから。
「…じゃあいくよ?」
「うん」
「痛かったらちゃんと言ってよ?」
「…分かってる」
脚元からふぅっと息を吐いた気配がしてきゅっと拳を握る。
さっきのぬるぬるした感触がまた訪れ、その指が何度か入口を行き来して。
ぴたっと止まったかと思えばぐっと中に押し入ってくる感覚に襲われた。
っ…!
今度は出さなかった声。
それを確認したかのようにぐぐっと少しずつ進入してくる心地に。
何とも言えない違和感、異物感。
恥ずかしい余りに前を覆っていた両手はいつの間にか口を覆っていて。
まるで地下を掘り進むように抉じ開けられる指の感覚。
とにかく今はただ、上手く呼吸することだけを考えるようにした。