煩悩ラプソディ
第37章 刻みだした愛の秒針/AN
懸命に深呼吸を繰り返すにの。
その呼吸に合わせて慎重に腰を進めていく。
さっきよりも力が抜けている入口は、滑りも手伝ってか進入を受け入れているようで。
少しずつにのの中に進む度に感じる包まれる感触。
そして呼吸に合わせ収縮される締め付けに耐えながら。
なんだろう、この言い様のない感覚は。
一度だって逸らさずに見つめてくる瞳から。
必死に拓いて受け入れようとしている体から。
俺に全てを預けてくれようとしているのが伝わってくるんだ。
それがどうしようもなく嬉しくて幸せで。
一刻も早くこの体と繋がりたいって、全部を独り占めしてしまいたいって衝動が抑えられない。
あぁ、もう…
はぁっ…と長く吐いた息に合わせてグッと腰を進めれば、持ち上げていた太腿としっとり触れ合った。
その感触が根元までにのの中に埋め込まれたことを知らせてくれて。
「にの…?」
ずっと逸らさなかった瞳に呼びかける。
すると初めて視線が逸らされ、首を持ち上げ確認するように目を伏せて。
「っ…はぁっ…」
ぱたりと頭を沈めたにのの口から、一際大きな息が漏れた。
そんな仕草に堪らなくなってゆっくりと体を倒す。
ただにのの顔を近くで見たくて。
もっと近くににのを感じたい。
「にの…」
「……」
真上から見つめると、ゆらゆらと潤ませた瞳で見上げてきて。
その間も角度が変わったそこはぎゅっと締め付けてくるけど。
でも、どうしても伝えたいんだ。
「ありがと…」
告げた途端、次第に歪む眉。
堪えるように震える顎。
見つめる先の薄茶色の瞳がじわりと揺らめいて。
「好きだよ…」
言い終えた後、両の目尻からはらりと零れ落ちた涙。
「っ…ぅ、ふっ…」
それを合図にたちまち涙が溢れ出し歪んでいく顔。
隠すことなくこんなにも俺に泣き顔を見せたのは初めてかもしれない。
もうにのの全部を俺のものにしたい。
…好きで好きでどうしようもないんだ。
そんな想いが込み上げて自然と目頭が熱くなる。
滲む視界の中しっかりと愛おしいその顔を焼き付けて。
「ふっ…あいばく…」
「にのっ…」
そっと両手で頰を包み、絶えず呼ばれる名前ごとその薄い唇を塞ぎ込んだ。