煩悩ラプソディ
第38章 ハートはメトロノーム/SM
「えっ、辞めるっ!?」
行きつけのファーストフード店で、デジャヴのような相葉くんの雄叫びが響いた。
「シーッ!何回言ったら分かんだよ…」
「ごめ、えっ、いやでもうそっ…」
目の前で口を覆う相葉くんを小声で咎めるけど、パニックになったように目が泳いでいて。
最初に打ち明ける相手を間違えたかな…
いやでも相葉くんのことがキッカケでモデルをやることになったんだし。
この話はまず相葉くんに伝えておかないと。
「ちょっと待って、どういうこと?」
「まんまだよ。もう辞めようかなって」
「えっ、急に?え、なんで?なんかあったの?」
「なんかっていうか…」
ポテトをパクリと齧ると、前のめりで聞いてくる相葉くんにジッと見つめられ。
"翔さんに可愛がられてないから辞める"とかまさか言えないし。
いや理由はそれだけじゃないんだけどさ。
「んー…なんかもういいかなって」
「いいかなって…」
「ほら、今年受験じゃん。なんかこれ以上やってると抜け出せなくなりそうだし」
「…それはそうだけど、」
合わさっていた視線が伏せられて、どことなくしょんぼりしたような相葉くんに。
「そういうことだからさ、近いうち翔さんに…」
「待ってよ」
翔さんに伝えに行くと言い掛けて遮られ、俯き気味だった顔がパッと上げられ真っ直ぐな強い瞳が俺を捉えた。
「なに勝手に決めてんだよ」
「え?」
「なに最初っから最後まで全部一人で決めてんのって!」
珍しく声を荒げたけど、周囲の目を気にしたのかすぐに俺だけに聞こえるトーンになって。
「俺は松潤に言われてこの世界に入ったんだよ?何にも知らずにさ」
「うんまぁ…」
「それがなに?また俺に何も言わずに勝手に辞めるつもり!?」
「だから今言って、」
「絶対だめ!そんなの俺が許さん!」
やけに鼻息が荒くなってる様子に思わず眉を顰める。
なんなんだよー…。
なんで相葉くんがそんなに熱くなってるワケ?
そもそも相葉くんこそ乗り気じゃなかったくせに。
あーもう、どうしたら…
「待って、二宮くんに相談しよ!」
「は?え、ちょ」
「……あ、もしもし?」
声のトーンが上がった相葉くんを尻目に、はぁと息を溢してしんなりしたポテトをまた口に放り込んだ。