煩悩ラプソディ
第38章 ハートはメトロノーム/SM
「そんなことない!」
バンッ!と大きな音と共に立ち上がったのは向かいの二宮くんで。
突然の展開に俺も相葉くんもビックリして二宮くんを見上げた。
テーブルに手を付き瞳をうるうるさせながら俺を見る。
「向いてないなんてそんなことない!だって…だって潤くんはカッコいいじゃん!」
興奮気味に告げられたその台詞に一瞬時が止まる。
「……え?」
「モデルだけなんてもったいないって思ってたもん!こんなにカッコいい人見たことないもん!」
「え!ちょっとかず…二宮くん!?」
いつしか瞳はキラキラに変わり、尚も興奮は止まないまま座っている俺に駆け寄ってきて。
「だから辞めちゃダメだよ…ね、潤くん」
肩をがしっと掴まれながら顔を覗き込まれ、その勢いにたじろいでしまった。
なんなんだこのカップル…
なんで俺のことでここまで熱くなれんの?
「それに翔さんだって、」
ふいに二宮くんの口から出た"翔さん"の名前にぴくっと眉が動いたのを自覚して。
…翔さん。
翔さんが…なに…?
「潤くんのこと…」
ーコンコン
突然響いたノック音。
それにより二宮くんの言葉は遮られ、全員一斉にドアの方を振り向いた。
カチャ、とドアが開いて現れたのはまさかの翔さんで。
っ…!
「…揃って何してるんだ?」
「あっ、いやちょっと…」
ガタっと立ち上がって笑顔で繕う相葉くん。
『まぁいいが…』と言ってドアの外に視線を遣る翔さんをこっそり見つめる。
最近じゃまともに目も合わせてない気がする。
そういうことには厳しい人だから、きっと礼儀がなってないって思ってんだろうな。
なんかもう…
自分がどうしたいのか分かんねぇよ…
「揃ってるなら丁度良かった。さ、どうぞ入って」
言いながらドアの外に呼び掛けた翔さんの促しで入ってきたのは。
ほぼ金髪に近い明るめの茶髪を逆立てた、いかにもガラの悪そうな兄ちゃんで。
「今日から正式にうちに入所が決まった。和也、同じアーティスト部門だ」
そう告げられた二宮くんが相葉くんを見て『あ』と小さく声を上げる。
「…どうも、大野智です。よろしく」
ぺこりとお辞儀をしたその人と目が合ったけど、ふいっと逸らされた。
…なにコイツ、感じ悪りぃ!