煩悩ラプソディ
第38章 ハートはメトロノーム/SM
なんか最初の印象とだいぶ違うな。
やっぱ人は見た目で判断しちゃいけないってことか。
「それよりよぉ、」
そう思ったのも束の間、笑っていた大野がまったりした口調で続けた言葉にまた眉を顰めることに。
「ここって男が好きなヤツ専門なのか?」
「……は?」
「いやほら、あの…なんだ。あ、二宮とか言うヤツ」
眉間に皺を寄せて考えた後、思い出したように二宮くんの名前を出した。
「あとあのー…相葉だっけ?あいつらそういう仲なんだろ?」
「……」
「俺ここで見たんだよ、ちょっと前」
「…だったら何?」
自分でも分かる程あからさまに苛つきを露わにする。
なにコイツ…
それが悪いことなのかよ。
何も知らないくせに…!
「いやなにっつーか…」
突き刺すような視線を向けているつもりでも大野は全く動じず口調はまったりなままで。
「なら都合いいやと思って」
「……は?」
「いや俺どっちもいけんだよ。それで前んとこ居辛くなっちまってさ」
「……」
「あ、心配すんな。あんたはタイプじゃねぇから」
ぽんと肩に置かれた手。
いやいや…聞いてもないこと勝手に喋ってヘラヘラしてるけど。
…コイツなにっ!?
つーか俺だってお前なんかタイプでも何でもねぇし!
睨みながら無言で肩を振り解けば、またヘラッとした笑みを浮かべ右手をポケットにしまって。
もうこれ以上コイツと関わるのは止そうとリュックを抱え直して一歩階段を上がったら。
また呼び止められて思いっ切りしかめっ面で振り向く。
「なぁ、あんた櫻井さんのこと好きだろ?」
「…っ!はあっ!?」
「え、図星?」
驚いたような顔をした大野の突拍子もない発言。
それに分かりやすく反応してしまった俺。
「くくっ、あんた面白ぇな。まぁせいぜい頑張れや」
そう言い捨てて階段を降りていった後ろ姿を見つめつつ、突きつけられた言葉が一瞬にして脳内を駆け巡った。
別にこの世界を本気で辞めたいワケじゃない。
ましてや相葉くんを道連れにしといて自分だけ辞めるなんて有り得ないし。
ただ理由が欲しかっただけ。
翔さんへの想いを断ち切る為の理由が。
だって…
好きな人から良く思われてないなんてさ。
そんなの…辛すぎるじゃん。