煩悩ラプソディ
第38章 ハートはメトロノーム/SM
「あ?どした?」
「いやそれ…ど、どこ情報…?」
「どこってそりゃ…本人に決まってんだろ」
「えっ!?」
思わず大きな声が出て周りに居た人々の注目を集めてしまった。
「おい声でけーぞ」
いつもは相葉くん相手に咎める立場なのに、こんな場所でしかも大野にシーッて仕草をされ悔しくて仕方ない。
いやそんなことはどうでも良くて。
ちょっと待って…
それ翔さんから聞いたってこと!?
「…それってさ、いつの話?」
「ん?えーっと…一昨日だっけ。帰りの車ん中で」
「それを大野…くんが聞きだしたってこと?」
「まぁな。別に世間話っつー感じだったけどな」
大したことないとでも言うような大野の口振りに、開いた口が塞がらなかった。
なんだコイツ…
どうやって翔さんの懐に入り込んだんだ?
俺なんか半年以上経っても仕事以外の話なんて1ミリもしたことないんだけど…!
まさか…
…まさかこんな身近にとんでもなく優秀な情報屋が居たなんて。
「あの…大野くん」
「んぁ?」
「いやその…なんか今までごめん」
「あ?なにが?」
「いやだから…」
勝手にバツが悪くなって口籠っていると、前方からパタパタと足音が聞こえて。
「潤くん!」
呼ばれた声に顔を上げれば、手を振りながら小走りで駆け寄ってくる笑顔の二宮くんが。
立ち上がって笑顔で返した時、後ろから歩いてくる見知ったスーツ姿を捉えて。
どきっ…
最近では翔さんを認識するだけでこの有様。
どう足掻いたってこの気持ちは誤魔化せないって分かってる。
でもどうすることも出来ない。
…だって大野くんにすら敵わないんだよ、俺なんて。
「…潤くん?」
腕を揺さぶられて我に返ると、心配そうにこちらを窺う薄茶色の瞳。
会議室で二宮くんに"辞めたい"って打ち明けてからは、何かと気にかけてくれているように感じる。
相葉くんにしろ二宮くんにしろ、俺が辞めようとしているのを全力で引き止めてくれていて。
だけど、こんなガキみたいな理由でフラフラ悩んでるなんて知ったらどう思うだろう。
相葉くんなんか絶対怒るよな。
俺の方は背中蹴飛ばす勢いで二宮くんにぶつからせたんだから。
「…松本」