煩悩ラプソディ
第38章 ハートはメトロノーム/SM
「私の言い訳も踏まえてもう一度聞くが…」
ふいに届いた優しい声。
「潤は…この仕事のことをどう思ってる?
やっぱりもう辞めたいか…?」
眉を上げてそう聞いてくる翔さんは、まるで俺の答えを知っているかのように促してくる。
もう…そんな聞き方ずりぃじゃん。
無言でふるふると首を振れば、ふっと息を吐き『じゃあ…』と続けて。
「私に直してほしいところはあるか?」
「っ、え…?」
「今までの潤への態度を改める。山ほどあるだろう?」
「えっ、いや…」
急に振られた内容にすっかり落ち着いていた心臓がまた高鳴りだす。
いや直してほしいって…
そんなこと言っていいわけ…!?
「…ないのか?ないはず、」
「あるっ!あります!」
思わず翔さんの言葉を遮ってしまったけど、こんなチャンス二度とないかもしれないし。
それにもう翔さんには、俺がどうしようもないガキだってことはバレてるみたいだし。
「えっと、あの…」
促すように頷いて待ってくれている翔さんと恐る恐る目線を合わせて。
「呼び方…松本は嫌です」
「あぁ、もう潤って呼んでるだろ」
「あと…車の中が静か過ぎて、なんか息が詰まるっていうか…」
「BGMか何かかけた方がいいか?」
「いやその、なんて言うか…は、話したいなって…」
「…そうか、分かった。なるべく努力する」
いつの間に取り出したのか手帳にペンを走らせる姿に、こんなどうでもいいこと本当に言っちゃっていいのかと気後れしてしまう。
「それから?もうないか?」
「えっ、とー…」
チラと目線を上げた眼差しがいつもの仕事モードになっていてビビるけど。
これは…直してほしいっつーか、してほしいことで。
「た、たまには…褒めてください…」
「……」
「いやっ、たまに!たまにでいいんで…」
無表情になった翔さんに焦って付け加えると。
「あまりやったことないんだが…」
と小さく呟いて傍のテーブルに手帳を置き。
「いつも頑張ってるな、潤」
言いながらそっと伸びてきた手に頭をぽんぽんと軽く撫でられ。
っ…!?
「…こんな感じか?」
更に至近距離で問い掛けられて、何も言えず顔に火が付いたように熱くなった。