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煩悩ラプソディ

第38章 ハートはメトロノーム/SM






スタジオの隅の休憩スペース。


撮影の合間、リュックからイヤホンを取り出しスマホに繋げ。


慣れた動作で音楽プレイヤーを起動すれば、流れ出すのはすっかり耳に馴染んだ曲。


「お疲れー、何聴いてんの?」


時間差で撮影を終えてやってきた相葉くんに、片耳のイヤホンを外してそれを宛がった。


「あ、ハートはメトロノームじゃん!ちょー良いよねこれ!」

「うん、最近こればっか」

「マジ?えーありがと松潤!」

「ふふ、なんで相葉くんが言うの」


嬉しそうに笑う顔に突っ込めば、得意気に『だって彼氏だもん』なんて惚気てくる。


最近はこの二宮くんの新曲に心を持っていかれっぱなし。


と言うのも、歌詞の世界が今の俺の心中とぴったりリンクしているからで。



"等間隔でリズムを刻む心臓


君に近付く度にテンポを速めていく


けれど調子が狂うとメロディにならなくて


いつまで経っても君の譜面に乗ることができない


恋は楽譜通りにはいかないもの"



…っていう片想いの心情をメトロノームに見立てて綴った歌。


もう何十回聴いたか分からないこの曲、最後は想いが通じてハッピーエンドなんだけど。



あの交流会の日、翔さんに呼び出された勢いでモヤモヤをぶちまけてから。


俺の中ではっきりと翔さんへの恋心が本物だと自覚した。


辞めたいと思った理由は、受験でもやる気でも何でもない翔さんだけにあったんだ。


決して嫌われてはいなかった事実、すでに認めてもらえていた事実。


そして、あの時抱き締められた感触や体温。


おまけにぎこちなく頭を撫でられ、まだそこに痕跡が残っているかのように思えたりすることも全部。


今こうして仕事を続けられている要素は、全て翔さんに繋がってるんだって。


単純明快。


俺は翔さんが思っているほど大人なんかじゃない。


だから、ガキはガキなりにこの恋をどうにか攻略してやろうって考えてんだけど。


現実はそう簡単にいくもんじゃない。


なんせ只でさえクセの強い翔さんだから。


でも身近にいる相葉くんたちの存在に勇気づけられるのは確かで。


俺だってやってやるさ。


…ガキの本気見せつけてやるんだ。

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