煩悩ラプソディ
第38章 ハートはメトロノーム/SM
静かな走行音だけが響く車内。
今日の撮影は相葉くんと一緒だったから、翔さんが一人で俺たちを担当してくれていた。
黙々と運転をする翔さんは相変わらず無口だけど、この静けさにもだいぶ慣れてはきたつもり。
あれからたまに、思い出したように突然喋り出したりするからこっちがびっくりしたりして。
翔さんなりに気遣ってくれてるんだろうけど。
ほんとはもっと俺がアピールしなきゃなんだよな。
でも、本気見せてやるっつっても何をどう見せたらいいのかイマイチ掴めてない。
とりあえず…相手を知ることからか。
隣で口を開けて眠る相葉くんをチラ見して。
こくっと静かに唾を飲み込み、思い切って口を開いた。
「…あの、翔さん」
「…ん、どうした?」
一呼吸の間のあと、眉を上げて返事をする瞳とルームミラー越しに視線が合う。
あれから、俺に向けられる眼差しも少し和らいだような気がしてる。
二宮くんや相葉くんへのそれと同じような、厳しさの中にも優しさを感じられるもので。
片や、そんな瞳を向けられるだけでどぎまぎしてしまう俺。
どこがガキなりの本気だっつーの。
こんなの正真正銘ただのガキじゃん。
…負けんな、頑張れ俺!
「あの…えっと、」
「……」
「翔さんって…や、休みの日とか何してるんですか…」
語尾が消えかかりつつも言い終えて返事を待つ。
ちょっといきなり踏み込みすぎた…?
もっと"好きな食べ物"とか軽いやつのが良かったか!
つーかこれで彼女の影がチラつくような返事だったらどうすんだよ…
けど大野くんは翔さん彼女いないっつってたし…
「特に…」
「っ、え?」
「特にこれと言ってないな」
「…ぁ、」
「まぁ強いて言うならテレビでスポーツ観戦するくらいだな」
淡々とそう続けると、また車内はシンと静まり返ってしまった。
…特にないんだ。
いや、つーか…スポーツ観戦ってテレビかよ!
観に行くとかじゃないってことか。
超インテリインドア派なんだな。
ふと、翔さんがソファかなんかに座ってぼーっとテレビを観てる画が浮かんで。
そのギャップに思わずふふっと笑みが溢れてしまい。
「…なんだ?何かおかしいか?」