煩悩ラプソディ
第38章 ハートはメトロノーム/SM
えっマジで言うのっ…!?
早く早くと急かすような眼差しを送られ、堪らず大野くんを見遣っても。
相変わらずヘラっと笑って『言えよ』と目で促されるだけ。
「ねぇ誰なの?潤くん!」
「勿体ぶってないで言っちゃえ言っちゃえ!」
ちょっと待てよ、元々はこのカップルの痴話喧嘩じゃなかったっけ?
なんか完全に主旨変わってない!?
でもまぁ…いつかは言わなきゃいけないだろうと思ってたし。
…味方は多いほうがいっか。
「…絶対驚かないって約束して」
「うん、絶対驚かない!」
「あと引くのもナシ」
「そんなことあるワケねぇじゃん!」
声のトーンをそっと落とせば、くっついた二人が寄り添いながら近付いてきて。
傍らで首を伸ばして見てる大野くんを視界の端に捉えつつ、ふぅと息を吐いて口を開いた。
「俺さ…」
「…うん」
「俺…翔さんが…
好き、なんだよね…」
途切れながらそう言い終えても、目の前の二人は分かっていないのか思考を巡らせている。
「え…待って"しょうさん"って誰?」
「名前全部言ってよ。略しても分かんないじゃん」
「いやだから翔さん…」
「だからその"しょうさん"ってどこの人なの?」
「どこのって、」
「どこの事務所の人?モデルの子とか?」
「違うし!あの翔さんだって!」
いくら"翔さん"だって言っても全く通じないこの押し問答。
「なに?誰だよ"しょうさん"って!」
「あ、まーくんショウコちゃんだ!ほらあの地下アイドルの!」
「あぁ、あの子か!」
「違ぇよ!櫻井翔が好きなんだよっ!」
思わず大きな声で口にしてしまったその名前。
それを聞いた二人はピタッと動きが止まって。
「くははっ、こりゃ面白ぇや」
他人事のように笑う大野くんの声だけがそこに留まった。
…ついに言ってしまった。
しかもフルネームで叫んでしまった。
やっぱり引いて…
ーガチャ
ふいに開いた背後のドア。
固まった二宮くんが更に目を見開いて両手で口を覆う。
振り返るとそこに。
っ…!
「随分騒がしいな…外まで聞こえてたぞ」
眉間に皺を寄せパタンとドアを閉めて、コツコツと靴音を鳴らして歩いてくる姿。
ウソだろっ…!
まさか今の…聞かれてた!?