煩悩ラプソディ
第38章 ハートはメトロノーム/SM
尋常じゃないくらい急速に打ちつける心臓。
今のを聞かれてたとしたらマジでシャレになんない。
こんな形で伝わるなんて最悪すぎんだろっ…!
いつもと変わらない表情のまま真っ直ぐに歩いてくる足音。
それが近付くにつれて俺の鼓動もドクドクと速まって。
まさにメトロノームみたいだ、なんてそんなことが瞬時に頭を過ぎった。
「潤、」
俺の前まで来て足を止めた翔さん。
杭か何かで打ち付けられたようにこの場から一歩も動けない。
背後に感じる三人の視線。
一人を除いては固唾を呑んで見守ってくれている空気がひしひしと伝わってくる。
これから俺に待っているのは一体なに?
翔さんは俺に何を言おうとしてる…?
全く色を変えない眼鏡の奥の瞳からは、その思考を少しも読み取ることは出来なくて。
けれど一瞬、その瞳がフッと柔らかくなったと同時に発せられた言葉は。
「合格だ…よくやったな」
そしてふわりと頭に降ってきた重みと温もり。
「さっき連絡があった。ドラマが決まったぞ」
言い終えて、ぽんぽんと優しく二度撫でられて。
え…?
う、そ…
「えっ、すごいじゃん松潤っ!」
「潤くん!やったー!」
驚き過ぎて声も出ない俺の代わりに歓喜の声が後ろから聞こえ。
「負げずにオーディション受けてきて良かったな。
よく頑張ったぞ、潤」
「っ…」
頭に置かれていた手は今度は肩へと移り、その感触と温もりがしっかりと伝わってきて。
おまけに今までで一番優しい顔で見つめてくれている。
その穏やかな表情に、翔さんの台詞がようやく現実味を帯びてきた。
ウソだろ…受かったよ…
翔さんっ…!
今ならどさくさ紛れにこの胸に飛び込んでも怒られないだろうけど。
こんな時こそガキっぽさを発揮する場面なんだろうけど。
なんせ場所が悪過ぎる。
しかもついさっき相葉くんたちに打ち明けたばっかりだし。
「ところで…」
送られていた穏やかな視線が伏せられたと同時に発せられた言葉。
「さっきの話だが…」