煩悩ラプソディ
第38章 ハートはメトロノーム/SM
「少し猶予をくれないか」
再び視線を合わせてきたその瞳は真っ直ぐに俺を見据えて。
「……はい?」
「私の立場としてのこともあるが、何より潤はまだ高校生だ」
「え?」
「仕事と私生活を混同しないようにお互いわきまえておかないと。まずは事務所と相談す、」
「え?え?ちょ、え?」
いつものように淡々と続ける口調に慌てて割って入る。
「あの、なに言って…」
「いやさっき…私のことを好きと言わなかったか?」
「っ!」
「そう聞こえたんだが…聞き間違いだったか?」
『だとしたらすまない』と言いながら眼鏡をくいっと上げる仕草をする翔さんに。
いきなり話が飛躍しすぎて頭が爆発するかと思った。
つーか…しっかり聞かれてたし!
そして急に何言ってんの!?
いやいやその前にそれってどういう意味?
ってそれより…ここみんないるじゃん!
デリカシーないのかこの人は!
瞬時に脳内をぐるぐると駆け巡る思考。
そしてパニックで開いたままの口。
後ろの気配は分からないけど絶対俺と同じように固まっているに違いない。
「ふふっ、良かったなぁ松潤」
いや、一人を除いて。
そんな間延びした声にも突っ込めない程、俺の脳内はこの出来事を整理するのに時間がかかっているみたい。
ちょっと待って、猶予って…
"お互い"わきまえるって…
それってさ、つまり…
ゆっくりと働きだした脳ミソと連動するように、ドクドクと動き出す心臓。
答えである二文字を浮かべようとした時、目の前で無機質に着信音が響いて。
「…後で話をするから。奥の会議室で待ってろ」
内ポケットからスマホを取り出しつつそう告げて、翔さんは事務所の外へ出て行った。
シンと静かになった途端、体に飛びついてきた衝撃に思いっ切り肩を揺らす。
「潤くんっ!ちょっと今の!あれって翔さんもってことだよね!」
「何だよもう!俺ぜんっぜん知らなかったし!早く言ってよー!」
肩をバシバシ叩かれながらひたすら『おめでとう!』の嵐。
いや俺だってこんな展開予想もしてなかったよ…
ドラマも決まって翔さんに想いが伝わって。
しかもまさかの翔さんも…?
今度はガクガクと揺さぶられ、この状況に少しでも気を抜くと倒れてしまいそう。