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煩悩ラプソディ

第39章 My name is Love/AN





夜中じゅう降り続いた雨は今朝にはすっかり上がっていた。


体調は全然万全じゃないけど今日の二限を落とす訳にはいかなくて。


キャップとマスクで鉄壁のガード。


今日は誰とも話したくなかった。


こういうところもほんとは直さないといけないんだろうけど。


昨日あのサボテンに全て吐き出したおかげか、気分は幾らかマシにはなっている。


…今の俺の味方はアイツだけだな。



結局、講義は二限だけじゃなく全部受ける余力は残っていた。


そして目論見通り誰とも会話することはなく。


幸いなことにバイトも入ってなかったから近所のスーパーで適当に夕飯を買って。


今日は目一杯ゲームの世界に没頭してやろうと、軽快にアパートの階段を駆け上がった。


…ん?


遠くの目線の先にドアをジッと見つめる男がいる。


一番奥のドアの前、明らかに俺の家だった。


うわ、なんだよ…
セールス?


一瞬、その男が去るまで様子を見ようとも思ったけど。


腹も減ってるし、何より早くゲームの世界に飛び込みたい。


階段を上がりきる手前でそろりと覗いてみても、その男は微動だにせずドアの前に立っている。


若干気味の悪さを感じながらも、意を決して最後の階段を上がりきった。


自分の家の前に見知らぬ人が居るというのはこうも気持ち悪いものなのか。


近付くにつれ緊張が高まる。


だってあの人明らかに怪しいし。


ドア二つ分手前に歩いてきた辺りで、その男が急にパッとこちらを振り向いた。


いきなり認識されて思わず立ち止まる。


するとその男は、一度目を大きくしたかと思えばにっこりと微笑んで。


「はじめまして」


と言いながら、距離があるにも関わらず握手を求めるように手を差し出してきた。


突然のその男の行動にたちまち恐怖が襲う。


この人の言うように俺は全くのはじめましてだけど。


俺んちの前に居るってことはこの人は俺のことを知ってるワケで…


ニコニコしたまま差し出された手。


だけどこの微妙な距離を詰める勇気なんて俺にはない。


「いやあの…」

「…?」

「いや…ど、どちら様ですか…?」


やっと出た掠れ声で小さく問い掛ければ、その男は微笑んだままこう告げた。


「僕は…そうだな。
サボテンの妖精ってとこかな」

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