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煩悩ラプソディ

第39章 My name is Love/AN






悪夢はまだ覚めていなかった。


「おかえり」


暗い玄関ポーチに佇んだまま、一直線上に存在しているソイツに心臓が止まりかけて。


「…なっ、ちょっ、えっ!?」

「いつもこのくらいなんだ?じゃあこの時間に合わせて準備したらいっか」

「いやあの、えっ…えぇ!?」


待って…鍵掛けて出たよな?
いや俺今開けたし!


うそ、なに…


この人なんなの…!?


思いもよらない事態に恐怖で足が竦む。


これが夢じゃないなら完全に事件だ。


夢なら夢で俺はかなりヤバい精神状態だけど。


それでもいいから、夢であってほしい…!


「どうしたの、そんなとこに突っ立って」


『入って』って近付いてきながらまるで自分ちみたいに言ってるけど。


この空気感、色、感覚、全部が現実だと瞬時に突き付けられて。


「あっ…あんた、どういうつもりっ…」

「え?なにが?」

「け、警察呼ぶからなっ…!」


未だ靴も脱げずその場から動けないまま、震える指でスマホを操作しようとしたら。


っ…!?


いきなりぐいっとその腕を取られて。


「…どうして?どうしてそんなことするの?」


昨日のデジャヴのようにぎゅっと抱き締められた。


こんなこと普通は絶対あり得ない。


何してくれてんだ、怖いんだよって思うのに。


この人から伝わる温かさが。


この人に包まれる心地が。


言葉では上手く言えないけど…


なんていうか…
ひどく安心してしまうのはなぜだろう。


「…大丈夫だから。僕は悪い人じゃないよ」

「っ…そういうことじゃなくて…」

「僕はね、うーん…
何て言ったら分かってくれるかなぁ…」


抵抗したいのに穏やかなその声色で諭されるとすっと抑制されてしまう。


「僕は…君の為に人間になったんだ」

「……」


ずっと引っ掛かっていたこと。


この人は最初から一貫して自分を妖精だと言っている。


これが悪夢じゃなく現実で。


仮にこの人が悪い人でなかったとしても。


サボテンの妖精ってのはさすがに信じられない。


百歩譲って俺につきまとうにしてももっとマシな嘘思い付かないのかコイツ。


やっぱり…


やっぱりマジでヤバい人なんじゃ…!

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