煩悩ラプソディ
第39章 My name is Love/AN
「あ、あんたの目的は何なの…?
金?金なら俺、」
「違うよ、昨日言ったじゃん。
僕は君に愛を教える為に来たんだって」
「っ、だからっ…そんな嘘よく堂々とっ、」
「嘘じゃない」
抱き締められていた体を急に引き離された。
少し高い位置にある黒目がちな瞳が真っ直ぐに俺を捉える。
その真剣な眼差しに変な緊張感が立ち込めて。
「…嘘なんかじゃない。あの日だってあんなに僕に心を開いてくれたのに」
「……あの日?」
「君が僕をここに招き入れてくれてさ、ずっと君の話を聞いてた」
「……話」
「彼女に振られた上に親友に取られちゃったんでしょ?」
「っ!」
なんでそれっ…
このことは誰にも話していないはず。
いや話したと言えば話したけど…
…あの、サボテンに。
ゾワっと全身に鳥肌が立った。
コイツの言っていることがもし本当だとしたら。
コイツがほんとにサボテンの妖精だとしたら…?
ん?って目を上げて優しく見つめてくる瞳からゆっくりと視線を外し。
ぐいっと胸を押し遣って無造作に靴を脱ぎ、一直線に部屋へと駆け出した。
ベランダの窓をバンッと開けサボテンの鉢を両手で持ち上げて。
こんなヤツっ…!
「やめてっ!」
大きく振りかざした時、背後から悲鳴にも似た声が響いた。
振り返れば、頭を抱えて小さく蹲るソイツ。
カタカタと小刻みに震える指先に驚きを隠せない。
「やめて、それだけは…お願い…」
未だ頭を抱えたまま弱々しく発した声が本心からのものと分かり。
心なしか手元のサボテンの花もくったりしているようにも見えて。
無我夢中で抱えたばかりに、人差し指にトゲが刺さって血が滲んでいた。
痛ってぇな、くそっ…
コトッと元の位置に鉢を置くとカラカラと窓を閉め。
蹲るソイツの前にそっと正座をした。
「…分かったから、」
ぽつり問い掛ければそろりと顔を上げた潤んだ瞳。
「もうしないから…」
「……ありがとう、」
「だから…
ちゃんと教えてよ…あんたのこと、」
「…え?」
「俺に分かるように…説明してよ」
窺うようにそう投げかけると、下がった眉のまま潤んだ瞳がゆっくりと細まった。