煩悩ラプソディ
第39章 My name is Love/AN
返却された新作のDVDを棚に並べていると、大野さんが俺を見つけて話し掛けてきた。
「なぁ、お前今日の夜ってヒマ?」
「え…まぁ、別に何もないですけど」
「マジか!じゃあ合コン来ねぇ?」
「合コン?」
ヘラッと笑って近付いてきた大野さんが、カートに残っているDVDを手に取り隣で並べ始めて。
「急ですねまた…」
「いや一人来れねぇって連絡あったんだよさっき。
人数合わせになるけどいいか?」
「まぁ別にいいですけど」
「おっ、お前なんか乗り気じゃね?」
「は?別にそんなこと、」
ふ~んなんてニヤニヤした笑みで手を動かす大野さん。
そっちこそ乗り気じゃん。
就活はいいのかよ、あんた。
「なぁこの新作見ろよ"ミニスカナースのハレンチ病棟24時"だって」
「ねぇ大野さん」
「あ?」
「その合コン当たりなの?」
行くからには俺だってモチベーションが必要じゃん。
人数合わせでも何でもいいけどさ、行くからにはそこ重要でしょ。
「…まぁそこそこ期待していいと思うぞ」
「なんすか今の間」
「いいんだよそんなのは!お前は黙ってついてくりゃいいんだって」
『じゃあこの後な』って捨て台詞を吐いてレジカウンターに戻る後ろ姿を見つめる。
…このタイミングは俺にとって良いのか悪いのか。
いやきっと良いに決まってる。
今まで大野さんから合コンに誘ってもらったことなんて一度もないんだし。
これはチャンス以外の何物でもないはず。
そうだよ、ただ単に彼女に振られたその振られ方が尾を引いてるだけであって。
一刻も早くあんな忌まわしい過去は忘れたい。
こんなセンチメンタルになってるから得体の知れない妖精なんかに憑かれちゃったのかもしれないし。
ふと手元の新作DVDが目に留まって。
恋愛モノらしきパッケージには"誰もが羨むハッピーエンド"の文字。
こんな映画みたいな恋愛最初っから求めてなんかいないけど。
そもそも誰もが羨むような恋愛なんてどこにあるんだって話で。
こんなのは全部作り物。
俺はそんな恋愛なんか要らない。
俺はそんなの…
じっと見つめていた手元のおとぎ話を、目線の高さにある新作の棚にそっと収めた。
俺は…
何であの子と付き合ってたんだろう。