煩悩ラプソディ
第39章 My name is Love/AN
ふわふわした頭と体には少し涼しくなった夜風が丁度良かった。
大野さんの言う通り、期待以上だった今日の合コン。
やっぱりこのタイミングで間違ってなかったんだ。
だって現に。
ふらふらと歩きながらスマホを取り出し、LINEの一番上にある見慣れないアイコンをタップして。
『楽しかったね。また二宮くんと遊びたいな』
語尾に可愛らしい絵文字付きのその文面。
"俺も楽しかったよ"って返信したらすぐに付いた既読。
『今度は二人で会いたいな』
まだ存分に残ってる余韻を頼りにその子の表情を思い出す。
連絡先を交換した時のはにかんだ笑顔が印象的で。
そんなやり取りの画面を見つめながら、何故かふと前の彼女と初めて会った時のことが蘇った。
親友の…親友だった潤くんに彼女を紹介されたのが始まりで。
その時もあんな風にはにかんだ笑顔の彼女と連絡先を交換したっけ。
それから自然な流れで付き合うようになって。
お互い干渉しない性格だったのもあって、つかず離れずの良い距離感で居られてると思ってた。
彼女と居ると安心できたし何より居心地が良かった。
言葉にしなくてもお互いのことは分かり合えてると思ってた。
俺は、そう思ってた。
…結果的に、思ってたのは俺だけだったんだけど。
今まで見て見ぬフリしてきたツケが回ってきたんだろうな。
誰からも必要とされない自分からずっと目を背けてきたから。
そんなの分かり切ってることだったのに。
認めたくなかった。
ああやって現実を突きつけられるまでは。
どうしてもこんな自分を受け入れたくなかったんだよ。
やり取りの途絶えたLINEの画面。
躊躇った指の先にはあの子からの"二人で会いたい"のメッセージ。
俯いて歩いていたらいつの間にかアパートの前まで来ていて。
薄暗い街灯の下、なんとなく返信する気にはなれずそのままゆっくりと階段を上がった。