煩悩ラプソディ
第39章 My name is Love/AN
昨日の朝は寝坊してマサキに水をあげずに家を出たのは確かだった。
その前の朝から数えたら一日半も栄養を与えられなかったマサキ。
さすがにあんな状態になるのも頷けるけど、それにしても。
自分で自分に水あげれないルールってなんなの?
昨日はあの後、片時も俺の傍を離れなかったマサキ。
風呂とトイレは引き剥がして何とか離れられたものの、寝る間際に"僕も一緒に寝る"なんて言い出して。
いつもは床に薄い布団でも文句一つ言わないのに昨日は全く引き下がる素振りはなく。
久々に飲んだ酒のせいか体もだるかったし、もう面倒臭くなって渋々承諾したんだけど。
ぴったりと背中に感じる温もり。
おまけに胸の前にしっかりと回された長い腕。
一晩中後ろから抱き締められたまま、心地の悪さでほとんど眠ることは出来なかった。
カーテンを通り越してきそうな陽光が暗い部屋を少しだけ明るくしている。
そんなやけに清々しい朝と相まって、すーすーと規則正しい寝息が首にかかるのも腹立たしい。
その吐息が昨日マサキに覆い被さられた感覚を思い起こさせて。
それは出会って初めて向けられた眼差しだった。
有無を言わさないような、強くて芯のある瞳。
そしてはっきりと告げられたセリフ。
"僕はにのが居ないと生きていけないんだから"
そんなことを言われたのも生まれて初めてだった。
ストレートな表現だけど、どこかニュアンスが違っていて。
いつものようにむず痒くなることもなく。
マサキの声で鮮明に再生出来るほど、その言葉が頭から離れないでいた。
「ん…」
小さく呻いた声が背後から聞こえ、少し緩まっていた腕にきゅっと力が込められる。
ぐりぐりと後頭部に擦りつけられるおでこを避けようと体を捩れば、向き合った形で今度は胸元に抱き着いてきて。
「っ、も…なんだよっ」
「くふふ…おはよ」
目下でくぐもった声を出しながら上がった顔。
その余りの至近距離に思わず目が泳いでしまう。
よく考えたらこんな恋人同士みたいなことよくやってるよな、俺。
つーかスキンシップの範囲ってどこからどこまで?
…俺もしかして既にコイツのスキンシップ受け入れてしまってない?
「にの?どうしたの?」
「っ、も…いいから離れろ!」