煩悩ラプソディ
第39章 My name is Love/AN
「へぇ~ルームシェアとか楽しそうだな」
大きな口で頬張ってもぐもぐさせながら喋る翔ちゃんは、高校の時から何も変わってなくて。
「けどあれだな。友達でもなかったのにどこで知り合ったの?」
「ん?あぁそれは…」
「僕はね、サボテンの」
「っ、ストップ!」
慌てて横に居るマサキの口を覆う。
ちょっとコイツ何ほんとのこと言おうとしてんの…?
バカじゃねぇの!?
「え?」
「いや何でもない!サボテンが好きでさ、コイツ!
それで知り合ったっつーか」
「へぇ~和也サボテンに興味あったのな」
「…うん、最近ね」
もごもごしている隣をギロっと睨んでも、やっぱり響いていないのか分からないって顔してて。
これ以上この場にマサキが居るのは危ない。
初っ端からこんなんじゃまともに会話なんか出来る訳がないし。
「…あ!お前バイトの時間じゃん!」
「え?」
「ほらもう行けよ、間に合わねぇって!」
「えっ僕バイトしてな」
「いいから行け!」
腕を引き椅子から立たせてドンっと背中を押す。
振り返ったマサキに口パクで"お願いだから行って"って伝えたら。
あからさまにしゅんとした顔になって、くるりと背を向けて歩き出した。
一度振り向いた顔はまだしゅんとしてたけど、心の中でごめんって謝って翔ちゃんに向き直る。
「大丈夫か?あの人…」
「うん平気平気!アイツ今日バイトなのに忘れちゃっててさ」
『ならいいけど…』ってぽつり呟いてから、マサキの後ろ姿を見つめていた視線がようやく俺に向けられた。
「いや、たまたまだけど会えて良かったよ」
「ん?なんで?」
「うん、あー…その、さ。
松潤のことなんだけどさ」
「っ…」
急に出てきたフレーズ。
一瞬でさっき見た残像が頭を過ぎって。
翔ちゃんは俺たち…俺と潤くんと同じ高校だったから、勿論潤くんとは面識がある。
高校の時は俺たちとそこまで一緒にいる訳ではなかったけど、大学に入ってからは潤くんと仲良くしているのは知っていた。
「…聞いたよ。彼女のこと」
「……」
「ずっと連絡取れないって相談してきた」
「……」
「一度和也と話したいって…」
「…何を?」
「え?」
「…何を話したいの?」
俺は…話すことなんて何もねぇよ。