煩悩ラプソディ
第39章 My name is Love/AN
広がる灰色の空は、まるで俺の心の中を映しているようだった。
さっきの話の内容なんて振り返りたくもないのに、脳裏に次々と浮かんでは纏わりついて。
それが足元にまで絡み付き、軽いはずのスニーカーがやたらと重く感じる。
上を見ても灰色の空、下を見てもくすんだコンクリート。
もういっそのこと目を瞑ってしまえたら。
全てから目を背けてきた俺にとって今更感は有り余るけれど。
そっと目を閉じて長い溜息を吐く。
目を開けたら、違う世界が広がっていたらいいのに。
俺のことなんて誰も知らない場所に行けたらいいのに。
「にの」
急に背後から名前を呼ばれて肩を揺らした。
その声は確認するまでもなく、俺のことをそう呼ぶ唯一の人物。
「さっきのなに?」
「…え?」
「なんで僕のこと邪魔者扱いしたの?」
「……」
振り返った先のマサキは、さっきと同じように眉を下げて悲しそうな瞳をしていて。
その表情にチクリと胸を刺されたけど、何だか今は説明するのも面倒だった。
「…さっきはああするしかなかったから。ごめん」
「ああするってどういうこと?僕が居ちゃダメな理由があったの?」
「…あったよ。友達の前でお前の正体バラす訳にいかねぇだろ」
「なんで?別に僕は何ともないのに」
またお決まりのきょとん顔。
ことごとく感じるコイツとのギャップ。
今日はやけにそれが腹立たしくて。
同時に、一から十まで説明するのももう嫌になって。
「もうさ…ちょっと疲れたから帰ろ」
それに、アパートまで数百メートルという道端でこんな込み入った話はしたくない。
そう思って一歩を出そうとした時、引き戻されるように腕を引っ張られた。