煩悩ラプソディ
第39章 My name is Love/AN
「…僕はね、にのが居ないと生きていけないんだ」
「っ…」
「僕にはにのが必要なんだよ」
背中をぽんぽんと優しく撫でながら、言い聞かせるようにマサキが続ける。
「生き物はね、みんな誰かを必要として誰かに必要とされるの。だからね、絶対一人ぼっちじゃダメなんだよ」
マサキの穏やかな声が荒んでいた胸にすっと入り込んできて。
「にのは?僕のこと必要…?」
ゆっくりと体を離されその瞳と向かい合う。
相変わらず注がれる優しい眼差しに、マサキの存在の意味がやっと分かった気がした。
人は人、自分は自分。
そう割り切ってこれまで生きてきた。
他人の考えることなんて分からないし、分かろうともしなかった。
自分が理解出来ないことから目を背けて。
突きつけられる現実から逃げて。
そんな自分を変えることも出来ずに、気付いた時には誰も居なくて。
だけど。
だけどマサキだけは。
こんなどうしようもない俺でも必要だって。
「…にの、大丈夫だよ。自分の気持ちを言うことは怖くなんかない」
そっと目尻に添えられた指でゆっくりと涙を拭われる。
「強がるんじゃなくて本当に強くならなきゃ」
真っ直ぐに注がれる眼差しは一度も逸れることはなく。
「…言ってごらん、にの」
そう呟かれた瞬間、体が何かに包まれたようにふわふわとして。
同時に、その温かさに後押しされるがまま口を開いた。
「ごめん、マサキ…」
「…」
「もう俺…自分が嫌だ…」
「……」
「助けて…マサキ…」
「……にの」
マサキっ…
「俺の…傍に居てよ…
もうっ…どこにも行くなっ…」
言い終えて堰を切ったように溢れてきた涙。
止めようと思っても全然止まらなくて。
頬を撫でられる心地にも応えられないまま。
ぼやけて映る先の瞳がゆっくりと細められた。
「そう…にの、それが"愛"だよ」
伝えられたフレーズを頭の中で繰り返す前に。
初めて会ったあの時を思い出すような、柔らかい唇が降りてきた。
…っ
あの時と同じようで全然違う。
そこから伝わってくるものこそが。
マサキの言うそれを形にしたものなんだと。
ー俺はその時、生まれて初めて本当の愛を教えてもらった。