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煩悩ラプソディ

第39章 My name is Love/AN






ふわりと頬を撫でられる心地に意識が浮上するような感覚がした。


自然と目を開ければ、広がっていたのは真っ白な景色。


一面に眩しい程の白。


今、目を開けているのか閉じているのかも分からないくらいに。


まるで真っ白い闇の中に居るようだった。


ここはどこ…?


一切手掛かりの掴めないこの状況が怖くなって、一歩を踏み出そうとした時。


っ…


ふいに訪れた不思議な感覚。


体が温かい何かにすぅっと包まれるような。


それが凄く気持ち良くて。


どこかで感じた温もりに似ていて、ひどく安心した。


その安らぎに浸りたくて、また瞼を閉じようとしたら。



「かず…」


微かに聞こえた声。


その声の元へ意識を巡らせれば、ぼんやりと視界が開けてきて。


「か、かず…」


え…


そこに居たのは、心底驚いた顔をした潤くんだった。


なんで…


「…かずっ!嘘だろ…先生っ!先生、かずがっ…!」


視界いっぱいにその顔が迫ってきたかと思うと、今度は叫びながら俺の前から姿を消して。


一体何が起きているのかとよくよく周りに意識を移してみれば。


見慣れない天井と小さなガラス窓。


遠くの方で騒がしく近付いてくる足音と。


すぐ傍のテーブルに、サボテンの鉢が。


少し高い位置にあるそれは、注がれている陽の光を浴びててっぺんの赤い花がキラキラしていて。


そしてふいに耳の奥で響いた声。


『にの…』


っ…!


その優しくて穏やかな声色を聞いた途端、一瞬で全ての記憶が蘇った。


っ、マサキっ…!


慌てて起き上がろうとしても体に全く力が入らない。


辛うじて上げた左腕には細いチューブがテープで留められていて。


自分のものとは思えないほど痩せた腕。


その余りの貧相さにパタリと力を無くす。


『にの…聞こえる?』


再び耳の奥で響いた声に意識を研ぎ澄ました。


『にの…僕を必要だって言ってくれてありがとう』


ねぇどこ?どこにいる…?


『僕はずっとにのの傍に居るよ』


嘘だよ、居ないじゃん…


『居るよ、傍に。僕はもうにののものになったんだ』


え?なに…


『じゃあね、にの。さよなら…』


…ちょっ、待って!
マサキっ!


行かないで、マサキっ…!

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