煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
「お、ニノおはよ。あれ?どした?」
周りにも手を挙げて挨拶を交わしながらこちらへ歩いてくるイケメン。
「…はよ。べつに」
「ふは、何だよそれ。別にって顔じゃねーじゃん」
「うっさいな。そういう日もあんじゃん」
「はいはい分かりましたよっと」
あからさまな俺の不機嫌をものともせずに前の席に座る翔ちゃん。
せっせとリュックから教科書類を出しつつも、周りの友達から話し掛けられて爽やかな笑顔を放ち続ける。
…翔ちゃんには分かんねぇよ。
俺の悩みなんか。
頬杖をついていた腕をぱたりと崩し机になだれ込む。
窓の外はムカつくくらい晴れ渡っていて、それすらも俺の神経を逆撫でするよう。
今朝の電車で情けなくもまた痴漢に遭ってしまった俺。
しかも…
しかも最悪なことにウチの学校のヤツに見られてしまったんだ。
真横に居たソイツは俺と同じブレザーを着てて。
ちょっと目線を上げたら後ろの痴漢野郎をすげぇ顔で睨んでた。
"やった、やってない"の押し問答をしばらく続けている内に駅に着いて、ソイツが有無を言わさず変態を引っ張って行こうとしたから。
なんか大ごとになりそうな気がしたのと、それ以上に親にバレてしまうってのが瞬時に頭を過ぎって。
『いいです!俺何もされてません!』
『えっ?いやだってさっき…』
『いいって!じゃ…あ、ありがとうございましたっ!』
『あっ、ちょっと!』
呆気に取られたような変態野郎とソイツを放置して駅を走り抜けてきたんだ。
つーか…
アイツ何年だろ…
学年違ったら顔なんて分かる訳ねぇけど。
いや同じ学年でも分かんねぇヤツも居るし。
全然見た事ない顔だったなー。
ああいうのが巷で言うイケメンってやつなんだろうな。
顔も良くて正義感があってもしかしたら勉強も出来たりして。
はー、なんか意味も無くムカつく。
つーか別に助けてって言ってねぇし。
アイツが変態に注意したりするから事が大きくなりそうだったんだ。
しかももう降りる駅だったのに。
今までなるべく我慢してきたのにアイツのせいで…
って…アイツまさか学校に言ってねぇよな?
ウチの学生が痴漢に遭ってましたなんてバカなこと言ってねぇよな?
ざわざわと胸騒ぎがすると同時に変な汗が背中を伝っていった。