煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
今朝の最悪なハプニングのせいで一日中使い物にならなかった俺の脳ミソ。
入試対策の小テストもてんでダメで。
普段なら余裕で満点取れるくらいのレベルなのに。
「ニノ、帰りなんか食ってく?」
「いやいい。今日は腹減ってねぇし」
「なぁんだよ~、まだ機嫌悪いの?」
「別にそんなんじゃねぇし。そいじゃあね」
今日の俺の様子のおかしさを翔ちゃんは絶対に分かってる。
それで声をかけてくれた優しさに素直になれない俺。
分かってんだよ自分でも。
俺だったらこんな生意気で天の邪鬼なヤツと友達になんか絶対なんねぇもん。
分かっちゃいるのにってやつ。
…バッカみてぇ。
自分へのイライラとモヤモヤとムカムカを引き連れたまま家の玄関を開けた。
すると、玄関ポーチに見た事のない靴がきれいに並んでいて。
しかも女性もののヒールまでそこに鎮座していた。
え、誰か来てんの…?
こういう来客って苦手。
しかも知らされてないってのが一番嫌なんだよな。
リビングのドアは幸い閉まっていて、それを良いことにこっそり二階へ上がろうとしたら。
「和也!帰ったのかー?」
ドアの向こうから明るい親父の声が響いた。
…くっそ、バレたか。
階段に掛けていた足をゆっくりと下ろす。
昔から親父の言うことには基本逆らえない。
小さい頃に母親を亡くしてからは男手一つで俺を育ててくれた親父。
そりゃ男同士だからお世辞にもいい生活なんて言えないけど。
こんな多感な時期になっても親父の居る家にはちゃんと帰るようにしてるし。
って自分で多感な時期って言うのも変な話だな。
でも親父にとっちゃ俺の反抗期も反抗なんて言えないレベルの可愛いモンなんだろうなって思う。
感謝してんだよ、これでも。
「和也ー!早く入れ!」
ドアの向こうから再び催促され、渋々ドアレバーをガチャリと引き下げた。
「こんにち…」
「あっ!」
顔を覗かせたと同時にリビングにこだました声。
驚いてその声の方を見遣れば。
「……あっ!」
それは間違いなく。
今朝、痴漢野郎を捕まえたおせっかい野郎だった。