煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
「お前さ、さっきの何?なんで親の前で朝のこと言おうとすんの?」
「いやだってほんとのことだし…」
「分かれよ!恥ずかしいだろフツー!バカなのお前!」
「でも恥ずかしいとか言ってる場合じゃないよ」
「はぁ!?」
思わず詰め寄って睨み付ける。
少し高い位置にある困惑した瞳が揺れて俺を捉えた。
「だって…悲しむよ、そんなの」
「……は?」
「そんなことされてるって知ったら親は悲しむよ」
「だから言うなっつってんじゃん!お前ほんとバカ…」
バカかよ!って言おうとしたら目の前が揺れて。
何が起こったんだと思う間もなく耳に届いた声。
「だから俺が守ってあげる…今日から兄ちゃんのことは俺が守るから」
ぎゅっときつく纏わるのは紛れもなくコイツの腕。
肩口に押さえ付けるように撫でられる後頭部の感触。
なっ、なっ、なんっ…
「なにすんだよっ!」
もがくと簡単に離れたその体を突き飛ばした。
よろめいたソイツを無視してドアを開け放ち、落ちそうになりながら階段を駆け降りる。
「おい和也っ!」
俺を呼ぶ親父の声を背に、脇目も振らず玄関から飛び出した。
なんなんだよアイツっ!
急にあんなことしやがって…マジでバカじゃねぇの!?
つーか勝手に"兄ちゃん"とか呼んでんじゃねぇ!
物分かり良過ぎるにも程があんだろっ!
何すでにこの状況飲み込んでんだよ!
こんなの急に言われて『はい分かりました』で済むかバーカ!
数十メートル走っただけで息切れし段々と失速する足。
はぁはぁと息を吐きながらふらつく体を公園のベンチに投げ出した。
夕方の公園は子どもの遊ぶ声で溢れ返り。
普段なら別に何とも思わないそれがやけに耳につく。
少しずつ落ち着きを取り戻す呼吸に反して、未だ全く整理がつきそうにない頭の中。
親父の再婚に関しては別に何とも思わない。
むしろ良いことだと思うよ。
…でもアイツと一緒に住むのだけは絶対に嫌だ。
あんなヤツと一つ屋根の下家族みたいに過ごさなきゃいけないなんて冗談じゃねぇ。
もういい、分かったよ親父。
俺だってもう小さい子どもじゃねぇんだ。
いつまでも甘えてちゃダメだって思ってたし。
親父に逆らったことのない俺の最初で最後の反抗。
…俺、今日から家出します!