煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
「よぉ、機嫌直ったのか?」
玄関のドアを半分開け身を乗り出してきたニヤニヤ顔。
いつもなら悪態の一つや二つ吐くところだけど今日は分が悪い。
「…ごめん。今日泊めて」
「ふは、別にいいけど。なに?朝からの原因それ?」
「…まぁ、そうっちゃそう」
「ふぅん。ま、入れよ」
スマホしか持ってない制服のままの俺を入れてくれた翔ちゃん。
家出したはいいものの行くあてなんかあるワケない。
だから、クラスで唯一県外組で一人暮らししている翔ちゃんのとこしか思い付かなかった。
「飯は?」
「…まだ」
「え~カップ麺しかねぇけど」
「いやいいよ、ごめん」
ワンルームの小さな部屋。
たまに遊びに来るけどいつも散らかってんだよな。
まぁ高校生の一人暮らしなんてそうなるよな。
翔ちゃんよくやってるよ。
やかんを火にかける背中を見遣り、改めて部屋の中を見渡した。
もしこのまま家に戻らなかったら俺はこの先一人で生活しなきゃいけないのか。
こういうベッドとか机とかも揃えて、洗濯とか掃除とかも全部自分でやんなきゃいけないんだ。
親父とずっと二人だったからある程度の家事は出来るけど。
でもあれか。帰っても誰も居ないんだ。
"ただいま"って言っても"おかえり"って誰も言ってくれないんだよな。
小さい頃は親父の帰りを遅くまで待ってて、絶対"おかえり"って言ってたっけ。
そんな俺に"まだ起きてたのか"って嬉しそうに返してくれた親父。
俺が食べる物は仕事に行く前に必ず全部準備してくれていて。
掃除や洗濯も休みの日に手を抜くことなくやっていた。
俺の為にずっと頑張ってくれた親父。
…やっといい人に巡り合えたんだ。
親父…俺が居なくなったら寂しいかな。
それとも新しい家族が居るから平気かな。
俺は…
俺はっ…
「よっと、出来たぜぇ~」
トンと置かれたカップ麺が小さい頃によく親父と食べていたそれで。
っ…
「え?」
「あ…」
顔を上げたらはらはらと零れてしまった涙。
驚いた顔で俺を見る視界がどんどんぼやけてきて。
「えっ、ニノ!?」
「う、うぅぅぅ~…しょうちゃぁぁ~ん…」
ごめん親父。
やっぱ俺の反抗は可愛いモンだったみたい。