煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
翌朝。
翔ちゃんと一緒に通学。
手ぶらで学校に行くなんて初めてで。
当たり前だけどかなり手持ち無沙汰な感じ。
翔ちゃんの家は学校から比較的近いから数駅で着く。
だから今日は痴漢の心配もなし。
しかも運良く座席に座れるという奇跡。
なんか今日はいいことありそうだな。
「連絡入れた?親父さんに」
「ん?あぁ、昨日入れといた」
「ふはは、プチ家出してごめんって?」
「プチ言うな」
「いやプチだろ。一日で終わる家出なんか聞いたことねぇぞ」
肩を揺らして笑う隣を睨み付ける。
…いや、そんなことできねぇか。
昨日は散々世話になったんだし。
「ふぁぁ~マジねみぃ。俺今日使いモンになんねぇな」
「ごめんって。聞いてもらってマジで助かったよ」
「なに?なんか今日素直じゃね?気持ちわる~」
「うっさいな。じゃ寝とけば?」
からかってくる翔ちゃんを肩で押して牽制する。
ニヒヒと笑いつつ、やっぱり眠いのかそのまま目を閉じた。
俺だって素直になろうと思えばなれるんだよ。
現に家出はギブアップしたし。
いやギブってか親父が悲しむと思ってさ。
新しい奥さんとのこと認めてないわけじゃないんだって分かってほしくて。
親父の再婚は認めるし歓迎する。
でも断じてアイツは認めないし歓迎もしない!
相変わらずの満員電車。
目の前には押し潰されそうな人たちが必死に踏ん張って立っていて。
座ってるとそれはそれで肩身狭いっつーか。
なんかこんな悠長に座ってんのが逆に申し訳なくなってくる。
こんな時は俺も寝ちゃお。
視界に入るからダメなんだきっと。
そう思い俯いて目を閉じようとした時、その視界の端に留った人物。
ドア傍に窮屈そうに立っている姿は間違いなくアイツだった。
げ、時間カブった…
そっか、まぁ当たり前か。
おーおーキツそうに立ってやんの。
ふん、せいぜいそこで押し潰されてろ。
車内が揺れる度に顔を歪めるアイツ。
そんな顔を見て一人ほくそ笑みながら腕を組んで目を閉じた。