煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
待てよ。
え、待って。
ちょっと違うなこれ。
違う違う、そもそも俺が痴漢に遭ってるとこを見られたことからが始まりなんだ。
アイツにさえ見られなければ俺の恥ずかしい秘密を誰にも知られることなく卒業出来たのに。
アイツだけが知ってる。
俺の弱みを。
…そっかだからか!
誰にも知られたくないとこに触れられたからなんだ!
しかも"兄ちゃんは俺が守る"とか気持ち悪ぃこと言いやがって。
お前なんかに誰が頼むか!つーかお前のこと弟なんて思ってねぇよバーカ!
…いやだけどこれは翔ちゃんには言えない。
痴漢に遭ってることは翔ちゃんにも言ってないんだし。
だとしたら嫌いなワケは何て言おう。
俺たち家族に急に入り込んできたから?
ずっと親父との生活だったのにいきなり一緒に住むことになったから?
っていやいや、それじゃまるで俺がファザ…
「お前ってファザコンだしな」
「っ!」
ビクッと肩を揺らし箸を持ったまま固まってしまった。
「仕方ねぇのかもなぁ。今まで親父さんと二人だったのに今んなって"はい家族です"って感じだもんなぁ」
「……」
「けどさぁ、もうガキじゃねぇんだしさ。
親父さんもニノと雅紀が仲良くしてくれる方が嬉しいと思うぜ」
「……櫻井くん?今なんつった?マサ…」
「え、雅紀じゃなかったっけ?」
いや、きょとん顔で生姜焼きモリモリ頬張ってるけど。
なにしれっと呼んでんだ!
なにすでに仲良くなってんだよ!
「結構いいヤツだよ雅紀。なんかさ"相葉雅紀"っていい名前だよなって言ったの。ま、俺には負けるけど」
「……」
「んで聞いたら戸籍上は相葉のままでいいんだって。
だから二宮にはなんねぇらしいぜ。
けどもしそうだったらウケるくね?アイツ"二宮雅紀"って顔じゃねぇし!」
「うっさい!知るかバーカ!」
バン!と机を叩いた勢いで立ち上がり、食べかけの生姜焼き定食と爆笑する翔ちゃんを置いて出口に向かう。
「お、もう食わねぇの?貰うぞ〜」
「勝手にしろよ!」
箸を持った手をヒラヒラされ益々怒りが込み上げる。
なんだよ翔ちゃんもアイツの味方かよ!
くっそ…あ〜ムカつくっ!
やり場のない拳をぎゅっと握り締めたまま。
まだ始まったばかりの昼休みを持て余すこととなった。