煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
ポツポツと等間隔で街灯が点る帰り道。
自分の家に帰るのがこんなに憂鬱なのは初めてで。
しかもこんな日に限って昨日からバイトが二連休。
学校終わりで真っ直ぐ帰るのも何だか気が引けて、意味も無くゲーセンで時間を潰していたものの。
財布も何もない手ぶらで何時間もそこに居られる筈もなく。
せめて陽が落ちてからと思い、ようやくとぼとぼと家の方向へと歩き出した。
冬の訪れを感じさせるような木枯らしの中、首を竦めポケットに手を入れて暖をとる。
触れたスマホを取り出せば、翔ちゃんからのメッセージが入っていて。
《ちゃんと親父さんに謝れよ。あと雅紀とも仲良くしろよ》
「……うっさいなもう」
変なスタンプと一緒に送られてきたそれに、同じスタンプを貼り付けて送信してやった。
昨日、親父に居場所を連絡したら返ってきたメッセージ。
《分かった。ご迷惑にならないようにするんだぞ。
それから今日のことは済まなかった。お前にちゃんと話してなかったから。越してくるのは来週だから心配するな。それまでに整理しよう。ごめんな》
親父からこんなに長文が来たのは初めてで。
しかも文面からは申し訳ないという思いがひしひしと伝わってきたから。
…もうさ、受け止めざるを得ないじゃん。
俺だけが駄々こねてるみたいになってんだ今。
分かってんの。
翔ちゃんの言う通りなんだよ。
ちゃんと親父に謝って、そしてアイツとも…
はぁと吐いた溜め息は静かな住宅街に消えていく。
このモヤモヤは何て言ったらいいんだろう。
やっぱ俺ってファザコンなの?
親父が取られるかも、とかガキみたいなこと思ってんのかなやっぱり。
しかもあんなウゼぇヤツが付いてきてんだ。
マジで仲良くなんかなれる気がしねぇんだけど。
家に辿り着くと珍しく玄関の電気が点いていて。
親父はいつも帰りが遅いから大抵真っ暗の筈なのに。
もしかして俺が家出したのが心配で早く帰ってきたのかな…
そう思うと心なしかモヤモヤが少し薄れた気がする。
カチャリと玄関ドアを開ければ廊下の先のリビングから灯りが漏れていて。
若干の緊張と照れ臭さが入り混じったまま、いつもよりそっと静かにリビングの扉を開けた。