煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
おかしいこと一つも言ってませんけど何か?って目の前の顔に書いてある。
違う、家族だからとかそんなのの前にな。
お前と一緒に居るのが嫌なんだよ!
分かんない?今までの感じ!
全然お前のこと歓迎してないの分かんねぇかな!
確かに俺と同じ境遇で、いや俺以上に辛い思いしてきたかもしんねぇけど。
そのこととお前を受け入れることはイコールじゃない。
初めっから思ってた。
なんか全てが鼻につく感じが無性に腹が立つ。
こんなやつが家族に、弟になるなんてぜっっ…っったい嫌だ!
「ごっそーさん!」
見つめてくる視線から逃れるようにガタっと席を立つ。
半分程食べた生姜焼きはそのままに、背を向けて一歩を踏み出そうとしたら。
「待って!」
いきなり手首をグイッと引き寄せられ。
っ…!
振り返れば意外に距離が近くて。
大きな手が手首を一周してぎゅっと握られる感触。
そうされている部分がじんわりと熱くなっていくのが嫌でも分かった。
「…だめ、一緒に行くの。俺が守るから」
「…っ」
真っ直ぐに向けられるその眼差しから目を逸らすことが出来なくて。
更にはなぜかまた心拍数が上がってきて。
「それからさ…俺のこと名前で呼んで?雅紀だから」
「なっ…」
「雅紀だよ」
掴む手にきゅっと力がこもったのを感じ、どくどくと血液が全身を駆け巡っていく。
え…
いや待って…
なんかこれ、やば…
澄んだ黒目がゆらゆら揺れながらそこに俺を映しだす。
ちょっと待て俺。
やばい、言っちゃいそう。
え、なにこれ。
「まさ…き…」
掠れつつもはっきりと耳に響いたコイツの名前。
最悪なことにその発信元は紛れもなく俺。
「…うん。これからそう呼んで」
そう言って至近距離で微笑んだその顔に。
頭の中でダイナマイトが爆発したみたいな音がした。
…は?今のなに?
「あ、ごめん!痛かったよね?顔も赤くなって…」
「~っ、うっさい触んなバカ!バカバカ!バカぢから!」
握られていた手を振り切り、今言える精一杯の悪口を吐き捨ててリビングを駆け出した。
バクバク動き回る心臓が重い。
アイツのせいで!
アイツなんかのせいで…
…マジでアイツなんなの!?