煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
「……みや……二宮っ!」
「っ、はい!」
飛んでいた意識が担任の声で呼び戻された。
クラス中の視線が一気に俺に集まる。
「お前だけだぞ、まだ提出してないのは。もう締め切りとっくに過ぎてんだから明日持ってこいよ」
その一喝の後、丁度のタイミングでチャイムが響き渡り。
ガヤガヤと動き出す周囲にワンテンポ遅れつつ、リュックに教科書を押し込んだ。
「お前どうしたの今日」
「…ん?」
クルリと体を向け眉を顰めながら窺ってくる大きな瞳。
「聞いてた?今の」
「いや。なんつってた?」
「三者面談だよ、最終の。日程出してないのニノだけだって」
「あぁ…」
心配そうに続けた翔ちゃんの言葉に、頭の片隅に追いやっていた事案が急浮上してきた。
今朝の電車内での出来事が大部分を占めてしまっていた脳内。
加えてまた一つ考えたくないことが増えやがった。
「どうすんの結局」
「ん?何が」
「何がって大学だよ。決めたのか?」
「……分かんね」
「え?分かんねぇって、」
「んじゃね、バイバイ」
無造作にマフラーをぐるぐる巻きにして席を立つ。
背中に翔ちゃんの呼ぶ声が刺さったけど、振り返らずに教室を出た。
***
品出しの最中、頭の中には色んなことが駆け巡っていた。
家出したのを親父にちゃんと謝ること。
まだ迷ってる自分の進路のこと。
また翔ちゃんにそっけない態度をとってしまったこと。
それからアイツの…
雅紀のこと。
商品棚にパンを並べつつ、入店音に惰性で発する『いらっしゃいませ』。
名前も知らない人たちが絶えず訪れるコンビニ。
整理されたマニュアルの中で働くのが意外と心地良くて続いているこのバイト。
ふと、しゃがみ込んで陳列する隣に客が並んできて。
この人も俺みたいに何かを抱えながら生きているのだろうか。
なんて、そんなの当たり前なのは分かってるけど。
顔も名前も知らない人にこんな想い馳せたってしょうがねぇけど。
「…あれ?」
頭上でぽつり聞こえた声。
その独り言には反応せずに手元を動かしていると。
「…ニノ?」
小さく掛けられた言葉に驚いて顔を上げる。
「おわ、やっぱニノだ!えぇ~久し振り!」
「え……もしかして智?」