煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
「小五以来だから…もう相当振りじゃん」
「ふふっ、そだね」
バイト終わり。
店舗横の駐車場に二人してしゃがみ込んで、思い出話に花を咲かせる。
肉まんをアチアチと頬張る智の横顔は当時の少年のままで。
「つーかどうしたの?この辺の高校行ってんだっけ?」
「いんや、俺全寮制なんだよ」
「えっマジ?なに?なんで?」
「ん、水産高校行ってんだ俺。県外のさ」
何でもないようにそう言いながらもぐもぐと口を動かす。
そんな智の近況に衝撃を受けつつ、段々と昔の記憶が蘇ってきた。
智とは小学校の同級生で、当時俺の唯一の親友と呼べる存在だった。
独特な間と雰囲気を持つ智とはなぜか馬が合って。
入学してからずっと、クラス替えがあって別々になってもよく一緒に遊んだりしていた。
その智は小五の時に家庭の事情で隣町の小学校へ転校することになり。
今まで一緒だった親友が居なくなる毎日を思うと耐えられなくて、親父に"俺も転校する"って泣きついたこともあったっけ。
何度か智の元へ遊びに行ったこともあったけど、段々とそれも叶わなくなって。
連絡する手段など持ち合わせていなかった当時、それ以降は疎遠になってしまっていた。
そして今。
全寮制の県外の高校に通っている智。
水産高校なんて…そういうのに興味があるなんて全然知らなかった。
「ニノは?こっちの高校?」
「あ、うん…まぁね」
「ねぇお父さん元気?懐かしいな、ニノのお父さん」
「ん…元気だよ、相変わらず」
笑いながらそう聞いてきた智の顔につられ緩く微笑む。
智はうちの事情を全部知っている。
今ではほとんど表に出すことのなくなった"寂しい"という感情を、小学生だった俺は智の前でだけは晒け出していた。
特別な言葉を掛けてもらった記憶はないけれど、智はそんな俺といつも一緒に居てくれて。
離れ離れになったにしろ、同じ時を経てそれぞれ歩んできた筈なのに。
こんなにも俺と智の『今』が違うなんて。
すっかり一人の人間として立っている姿に、今の俺の現状がどうしようもなく情けなく思えた。
翔ちゃんだって智だって、自分の意志でそこに立って生きてる。
俺は…
俺は一体どうしたいんだろう。