煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
ガタゴトと揺れるいつもの満員電車。
そして俺の背後にはぴったりと張り付くように寄り添う雅紀。
目前にはドア窓が迫り、右も左も逃げ場はない。
あれからと言うもの、毎朝玄関前で待ち伏せされて一緒に通学するハメになり。
頼んでもいないのにこうして後ろに陣取って痴漢から俺を守ろうとしている。
うなじに感じる雅紀の吐息。
俺を隠すような位置取りで密着する体。
………。
ここ最近特に感じるおかしな現象がある。
後ろに居る雅紀が触れている全ての部分が熱くてどうしようもない。
そして鼓膜に響く心臓の鼓動と速くなる脈拍。
それがバレないように必死に俯いて微動だにしないのが毎朝の定番になっていた。
俺はきっと頭がおかしくなったに違いない。
なんで雅紀相手に朝からこんな気にならなきゃいけねぇんだよ。
こんなの痴漢に遭ってた時より拷問じゃねぇか!
ガタン!と音がして重力の掛かる電車内。
いつもこの瞬間が何よりも苦痛で。
ぎゅうっと押し潰される感覚は拭えないけれど、雅紀が盾になっている為か重さはほとんどない。
ふぅと小さく息を吐いた時、ふいにケツにもぞりと触れた感触がして。
っ…
それは紛れもなく今までと同じそれ。
動かせる範囲できょろきょろと顔を動かしても皆我関せず状態。
え、なんで?どいつが…
「…兄ちゃん」
突然左耳を掠めた低い声にピクッと肩を揺らす。
すぐに熱を持った耳たぶに更に囁かれた言葉は。
「油断しちゃダメだよ…」
「……えっ」
次の瞬間、触れていた手が移動して前触れもなく俺のをぎゅっと握った。
「うっ…!」
「ごめん…我慢できなくなっちゃった」
「はっ…?んっ…!」
包まれた手にきゅっと力がこもり、同時に耳たぶに唇を寄せられ。
「はぁ…兄ちゃんっ…」
「やっ、やめっ…マジ、ちょっ…」
っ、ふざけんなよっ…!
マジでっ、やばっ…
え、ちから…はいんな…
「やっ…やめろってっ!!」
そう叫んだ次の瞬間、パチっと視界が開けて。
カーテンから差し込む陽光と窓の外から漏れてくる生活音。
は…?
天井をぼんやり見つめたまま、ドッドッと心臓が痛い程に波打っていた。
…なんだよ今の。
もう…
マジでさいっ…あく。