煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
…ったく、なんなんだよ。
今までの図々しさと馴れ馴れしさはどこいったんだっつの。
「別に…もう決まったことだからしょうがねぇじゃん。
俺たちがとやかく言ったって何も変わんねぇんだから」
「……」
尚もしゅんとした表情でこちらを見つめてくる雅紀を見ていたら、さっきまで落ち着かなかった心臓はすっかり元通りで。
ある意味雅紀の存在はこれからの俺にとっちゃ迷惑なのかもしれない。
まだ保留状態のこの感情といずれ向き合わなきゃいけない時が来るんだろうけど。
それがいつになるのか、そうした時に俺はどうなってしまうのか、って。
未知で不安定すぎて全然イメージが出来ないんだ。
でも。
「…とりあえず俺たち"家族"になったんだからさ…
もうそういうこと考えなくていいんじゃねぇの」
何となく雅紀の目を見れなくてふいっと顔を背けてそう続けた。
なに本音隠して兄貴っぽいこと言ってんの俺。
バカじゃねぇの俺。
…バカじゃないの、ほんと。
自分で言っておきながら段々と恥ずかしくなってきて。
対面の雅紀はさっきから何も言わずにだんまりを決め込んでるし。
どんな顔してるのかも見れないくらい恥ずかしい。
…ってそろそろなんか言えよバカ!
「ありがとう…」
ふいにぽつり小さくこだました声。
目を上げようとした瞬間、どんっと勢い良くぶつかってきたカタマリ。
っ…!?
「兄ちゃん…ありがとぉ…」
ぐすっと鼻を鳴らして抱き締めてくる息苦しさと熱に、また一気に加速しだす心拍数。
ちょっ、ちょっ、ちょっ…!
いきなり飛びついてきて力任せに抱き締められて。
おまけに肩口でぐずぐず泣かれちゃあ…
……えーっと。
ドキドキしながらそっと背中に手を回し。
ぽんぽんとゆっくり撫でつけると。
それに呼応するようにぎゅうっと抱き締めてくるから。
ちょ、待って…
ど、どうしよ…
背中を撫でていた手を震えながら上まで持っていき。
艶のある黒髪に恐る恐る触れてみた。
サラサラした指通りにきゅっと心臓が締め付けられる。
すると肩口に寄せていた雅紀の顔が身動いで離され。
っ…
至近距離にその顔が近付き、赤いままの瞳が俺を捉えた。