煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
「じゃあ…しばらくお世話になるね」
うるうるした瞳を細めてそう言った目前の雅紀。
……ん?
「断られたらどうしようって思ってたんだ。
こんな寒い中なんて凍死しちゃうよね」
「……ん?はっ?なにが?」
「良かった、兄ちゃんが優しくて。
あ、枕は自分のあるし大丈夫だから」
「聞け!なに?なんの話…?」
向かい合って抱き締められたままの状態で。
多分俺と雅紀は違う次元の話をしている。
「え、だから…俺まだベッドないからさ。
兄ちゃんと一緒に寝ていいってことでしょ?」
「…はぁ!?なんでそうなんの?お前っ…なにがどうなって今の話でそうなるワケ!?」
「だって邪魔じゃないって言ったじゃん!
それに家族だから余計なこと考えるなって」
「言ったかな!いや言ったけどさ!
そっ…そういうことじゃなくねぇ!?」
コイツのぶっ飛んだ思考回路には今までも何度か驚かされたけど。
こんな都合の良い解釈ってアリ?
つーか俺の意図なんか全っ然伝わってないってこと…?
「言ったよ、兄ちゃん。絶対言った。
だから俺と一緒に寝るの。いい?」
「はっ?ちょっ、勝手に決めん…」
ガチャ
「かずな…」
「わ――――!!」
「ぶっ!」
いきなり開いたドアに反射的に雅紀の顔を思いっ切り突き飛ばしてしまい。
べちゃっと後ろに倒れ込んだ無残な姿を見て親父が声を上げた。
「お前また雅紀くんにこんなことして!何やってんだ子どもじゃあるまいし!」
「っ、親父こそノック無しで入ってくんなよ子どもじゃあるまいしっ!」
赤くなった顔で言い返しても親父には何の効力もないらしく。
「それよりな和也、まだ雅紀くんのベッドが来てないんだ。当面お前のベッドを貸してやれ」
「それ今聞いたわ!つーか何で俺が一緒に寝なきゃいけねぇんだよ!子どもじゃあるまいしっ!」
精一杯噛み付いてキッと親父を睨み上げる。
すると、はぁと溜息を一つ吐き俺を見下ろして一言。
「…一緒に寝るくらい良いだろ、男同士なんだし。
お前はもっと大人になれ、和也」
そう言い捨ててパタンと閉められたドア。
傍らには鼻を押さえてへへっと笑う雅紀。
…違うんだよ親父。
男同士だから良くないんだってば!