煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
その日の夜。
「お邪魔しまーす」
風呂上がりのほかほかした空気を纏い、何食わぬ顔で雅紀は俺の部屋を訪れた。
テレビ画面と向き合ったままチラッと振り向けば、意味もなくニコッと微笑まれ慌てて顔を戻す。
…つーかまだ21時なんだけど。
来るの早くない?もう寝るのコイツ。
「何してんの?」
「…見りゃ分かんだろ」
「いや俺ゲームとか持ってなかったからさ。
その手のやつは全然分かんなくて」
背後に突っ立ったまま進む会話が妙に居心地悪くて。
なんか雅紀に後ろに立たれるとどうしても身構えてしまうっつーか。
…俺が、勝手に。
「まだ寝ないの?」
「こんな早い時間から寝れるかよ。寝たきゃ勝手に寝れば」
「でも兄ちゃんのベッドだし先に入るなんて、」
尚も背後から話され続け、どうにもむず痒くて後ろを振り返った時。
「じゃあ俺も見てよっと」
「っ…!」
急に隣に座り込んできた雅紀の横顔が思いもよらず至近距離にあって。
それはまさしく窓ドンをされた時と全く同じアングルだった。
その時のことが蘇ってきて一気に熱くなる頬と耳たぶ。
「あ、負けそう!兄ちゃん負けそうじゃない?これ!」
「っ、うっさいな!お前が急にっ…」
「あーあ負けちゃった…」
"YOU LOSE"と表示された画面を見て残念そうな声を上げる雅紀。
あーあじゃねぇよ!
お前のせいで負けたじゃねぇか!
無言で隣を睨むと俺の視線に気付いたのかこちらに振り向いて。
う…
その近さに思わず体が引けてしまう。
雅紀に見つめられるとそこに縫い止められたように動けなくなる。
そして逸る心臓の音とじんわり熱くなる耳たぶを嫌という程自覚するハメになるんだ。
…くっそ。
めちゃくちゃ悔しいけど。
こんなの認めたくなんかないけど。
やっぱり俺…
雅紀のこと…
「…兄ちゃん、もう寝ようよ」
「…っ、へ?」
「俺やっぱもうダメ。眠くなってきちゃった」
「は?ちょっ…」
そう言い終えると手首をぐいっと引っ張られ立ち上がらされて。
あくびをしながらごく自然にそのままベッドに入ろうとした腕を慌てて引き留めた。