煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
「まっ、待てって!」
「え?どうしたの?」
「どうしたってお前っ…」
「恥ずかしいの?」
掴まれたままの手首は全く離される気配がないまま。
お決まりのきょとん顔で覗き込んでくる真っ直ぐすぎる瞳。
恥ず…かしいに決まってんだろバカ!
なんでコイツはこうなの?
優しそうなフリして有無を言わせないような誘導の仕方するし。
こっちの意思なんて知ったこっちゃないって感じの強引さ。
おまけにせっかちなのか人の話なんて聞く耳持たずで。
なんでこんなヤツを俺は…
「恥ずかしくなんかないよ、俺たち家族なんだから」
「っ…」
「ほら、寝よう?」
悪びれもなくそう言ってニコッと微笑む顔に。
その無垢な表情とセリフに、何をちょっと傷付いてんだ俺は。
自分で"家族"というレッテルを貼ったくせに。
俺の胸の内なんて全く知らない雅紀にこうも簡単に肯定されてしまうと。
なんだか一人ドギマギしてるのが急にバカらしくて虚しく思えてきて。
…なんだよ。
「…誰が恥ずかしいっつったよ。こんなの何ともねぇよ、家族なんだし」
「ふふっ、だよね。なんか修学旅行みたいで楽しくない?」
「ガキかよ。バカじゃねぇの」
「へへっ、じゃあおやすみなさーい」
さほど大きくはない普通のシングルベッド。
そこに男子高校生二人が横たわれば案の定窮屈で仕方がない。
肩を並べて、なんてスペースはある筈もなく。
お互い背中合わせになり、柔らかな羽毛布団に肩までくるまって壁と向き合った。
いつもは寒さでなかなか寝付けないけれど、雅紀が居るとだいぶあったかい。
というか熱い。
コイツ体温高いのかな。
背中からのぬくもりがハンパないんだけど。
間近の羽毛布団が微かに上下するのを感じ、雅紀はすでに眠ってしまったんだと思い知る。
そうなると更にさっきまでのドキドキはどこかに消え去って。
いつもより温かいベッドも相まって急激に眠気が襲ってきた。
ふぁ…
もう寝よ…
「兄ちゃん…」
っ…!
瞼を閉じようとしたその瞬間、背後からぽつり聞こえた声。
「…寝た?」
「………」
「……寝ちゃったか」
……いや起きてます。
つーかなに!?
急になにっ…!?