煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
「おう、おはよ」
背後からポンと肩を叩かれ、聞き覚えのあるその声に渋々目を向ける。
「おはよ、雅紀も」
「おはようございます」
「ふは、おいお前の兄ちゃん朝から不機嫌すぎんだろ!」
雅紀の肩を抱いて茶化すように俺の顔を覗き込みながら翔ちゃんが笑う。
今朝、朝食の時に雅紀が"かずくんって呼んでいい?"と聞いてきた。
やっぱりというか案の定というか。
しかも今朝は親父も新しい母さんも居る食卓だったもんだから。
満場一致で俺の意思なんて関係なく雅紀の"かずくん"呼びは採択された。
つーかさ、こういうとこもしかして計算してんの?
真面目そうなフリしてほんとはめっちゃずる賢いヤツなんじゃねぇの?
「いや…多分俺のせいだと思うんですけど…」
「え、なに?なんかしたの?」
「えっと、かずくんって呼びたいって…」
「バカ!言うなバカっ!」
翔ちゃんの前でんなこと言ってんな!
慌てて雅紀の腕を引っ張って制しても後の祭り。
「ぶっ…ぶはははは!かずくん?えっ、かずくん!?」
「~っ、うっさいなもう!だから呼ぶなって言ったじゃねぇかバカ!」
「え、だってかずくんが勝手にしろって言ったじゃん!」
「あれはそういう意味じゃねぇんだよ!分かれよ!」
「まぁまぁ、あんま大きい声出すなよかずくん」
「うっせ!笑ってんな!」
ぞろぞろと人の波が続く校門手前の通学路。
雅紀の横からニヤニヤとした目を向けてくる翔ちゃんに噛み付いていると。
「わっ…!」
急にどんっと左肩にぶつかられて思わずつんのめってしまい。
「あ、わり」
そこそこ大胆にぶつかってきておきながら、ソイツはチラッとこちらに顔を向けただけで。
しかも痛いのはこっちなのに思いっ切り顰めっ面しやがって。
「ちょっ、松潤!」
「痛って…何、お前知り合い?」
「うん、同じクラスで…ごめん、アイツちょっと愛想ないんだよね」
"大丈夫?"って雅紀に心配されながらも沸々と。
二年のくせになんだあの態度。
しかもほんの少ししか顔見れなかったけどまぁまぁイケメンじゃねぇか。
くっそ腹立つ!
マジで今度会ったら一発ぶん殴ってやっからな!
今朝の一悶着の一件もあって不機嫌MAXのまま校門をくぐった。