煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
その時は意外にも早く訪れた。
放課後、急に入ったバイトの連絡に急いで靴箱に向かっていたら。
「なぁ」
ふいに聞こえた声に目を遣れば。
傘立てに座り脚を組んでこちらをジッと見る視線とぶつかって。
「…あ」
「朝は悪かった。ぶつかって」
脚を組んだまま無表情で。
発する内容とは全く相反するその態度。
なんだコイツ…
その悪びれのない様子に益々苛立ちが込み上げる。
「…それ人に謝る時の態度かよ」
「……」
「それにお前二年だろ?口の聞き方気をつけろよ」
「……」
未だジッと動かずにこちらを見つめる瞳。
なんならポケットに手突っ込んでるし。
これでも結構強めに言ってんのに全然響いてねぇなコイツ。
「お前さ…」
「あんたさ」
ふいにスッと立ち上がって向かってきたソイツにビクッと肩を揺らした。
そのまま真ん前まで来て見下ろす瞳に捕らわれて。
近くで見るとパーツがはっきりしていて濃い顔立ち。
めちゃくちゃ腹立つけど間違いなく絵に描いたようなイケメン。
…くっそ。
顔の圧ハンパねぇし…!
負けずに目を逸らさぬまま見上げていると、形の良い唇が微かに動いて。
「あんた…相葉の兄貴だろ」
「……え」
「相葉の兄貴かって聞いてんの」
「…そ、そうだけど何だよ…」
急に出てきた"相葉"というワードに思わず動揺してしまう。
同じクラスだって言ってたけど。
それがなに…
「…ふぅん」
「……は?」
「いや…別に」
そう言って、ほんの少し口角を上げたヤツが次に発した言葉に耳を疑った。
「あんたさ…相葉のこと好きなの?」
「っ!?」
「好きなんだろ?」
「はっ?な、何言って…」
「ふっ、分かりやす過ぎ。
まぁでも…無理だと思うよ、あんたじゃ」
そう言い捨ててくるりと踵を返し靴箱から出て行った。
呆然と立ち尽くす耳にさっきのアイツの声がリフレインする。
"相葉のこと好きなの?"
…は?
なに?今のなに…?
冷静に考えようとする頭とは裏腹に、勝手に打ち付けてくる心臓と汗ばんだ手の平がそうさせてはくれない。
つーか…
"無理だと思うよ、あんたじゃ"
って…
はぁ!?
なんでお前に言われなきゃなんねぇんだよ!