煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
バイト中、アイツの言った言葉が頭の中を支配し続けていた。
なんであんな見ず知らずのヤツに俺の気持ちがバレてんだよって。
しかもきっぱり言い切られた。
お前なんかには無理だって言い切られた。
…何なんだアイツ!
年下のくせしてタメ口ききやがるし、ぶつかってきたの謝りに来たはずなのにあんな捨て台詞吐きやがって。
くっそ。
無理だって、そんなのさ…
そんなの…
分かってんだよ…バカヤロ。
画面に現れた"GAME OVER"の文字を見てドサッと後ろに倒れ込んだ。
言われなくても分かってんだよ、そんなの。
…だって。
雅紀みたいなイケメンで優しいヤツが、こんな天の邪鬼で口悪くて可愛げのない俺なんか好きになるわけないじゃん。
親にも、友達にも、好きな相手にも。
いつだって素直になれない自分に心底嫌気がさす。
雅紀が傍に居ると特にそう思う。
あんなにストレートに物事を捉えるヤツが近くに居ると。
どうしたって自分の嫌な部分を自覚するんだ。
俺に無いモノをたくさん持っている雅紀。
それが見えれば見える程自分が嫌になっていくけれど。
でも。
雅紀のことはどんどん好きになっていく。
頭の中が雅紀でいっぱいになって少しの隙間もないくらいに。
これってもう、手遅れだよな…
自覚しているつもりだったけど他人に言われると結構くるもんだな。
はぁと溜息を吐いて目を瞑った。
煌々と注がれる蛍光灯の明かりが瞼を通り越して目の奥を刺激する。
すると、ふいに視界が暗くなったような気がしたと同時に。
「かーずくん」
頭上から柔らかい声が降ってきて。
パチっと目を開ければ暗く翳った逆さまの雅紀の顔。
っ…!
「もう寝るの?じゃあベッド上がんなきゃ」
「っ、おまっ…急に入ってくんな!」
「え、だって開いてたし」
相変わらずの雅紀節で何食わぬ顔のまま部屋に入ってきた。
いちいち心臓に悪いんだよ…
こっちの身にもなれっつーの!
いそいそとベッドに潜り込む雅紀を見つめつつ、ずっと頭の中を廻っているアイツの台詞が過ぎって。